『海事交通研究』(年報)第70集を発行しました。

  12月15日発行後、海事関連の研究者の皆様や企業、団体並びに公立や大学の図書館に配本しました。配本先図書館等はこちらからご覧下さい。
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  また、本誌をお読みになってのご感想・ご意見なども是非お寄せ下さい。       
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≪序文から≫
 日本では新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が進んでおり、感染者数が大分減ってきておりますが、海外では再び増加している国もあり、また新しい変異株の発見もあり、予断を許さない状況が続いています。
 この感染症が、世界の人々の健康や生活、経済や社会に与えた影響は計り知れないものがあります。感染防止のため人々の対面交流が制約を受けた中で、医療・介護・通信・交通・物流(含・海運)・インフラなど人々が日常生活を送るために欠かせない仕事を担っている「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる人々の仕事の重要性が再認識されています。また、テレワーク(在宅勤務)という働き方やオンラインでの会議やセミナーが普通になってきています。
 ポスト・コロナの「持続可能な」人類の幸せな未来を見据え、待ったなしの「環境」や「デジタル」等への対応の動きも加速してきています。海事社会も、この動きにしっかり歩調を合わせ、歩んでいく必要があります。
 当財団は、このような中で、本年3月に設立80周年記念出版『日本の海のレジェンドたち』を、はじめて出版社から出版し、本書はおかげさまでこのほど「住田海事奨励賞」を受賞することとなりました。執筆者・関係者の皆様とともに、この喜びを分かち合いたいと思います。また5月には木原知己氏の執筆による『躍動する海―さまざまに織りなす「海」の物語』の出版企画にも参画しました。

 さて、本誌の今号では、従来のような「指定テーマ」を設けず、現在話題になっているテーマ候補をいくつか例示するに留めたうえで、全編「自由テーマ」で論文等を募集しました。その結果、従来にも増して、多彩なテーマについての論文等を掲載することが出来ました。先ずは、執筆者並びに査読を頂いた皆様に御礼を申し上げます。
 西本氏の「北極海域における船舶による重質燃料油(HFO)の使用・運搬規制 ―海運の国際的規律と北極域の国際秩序との交錯―」では、北極海航路に適用される環境規制をめぐる動きと今後のあり方について考察を加えています。
 坂巻氏の「無害通航を妨害してはならない義務の射程に関する一考察 ―国連海洋法条約24条1項の起草過程―」では、領海内を無害通航中の船舶への沿岸国の対応に関し、国連海洋法条約の解釈について述べています。
 石田氏の「船員史における家父長制システムの系譜」では、海運界における男女共同参画推進が進まない背景として、船員史における家父長制の本質を探ったうえで、「新しい船員文化」の構築に向けて工夫していくことの重要性を指摘しています。
 若土氏の「活版印刷の発明が及ぼした「海上保険証券」への影響 ―中世ヨーロッパの海上保険証券における雛型の変化―」では、14世紀後半に北イタリアの商業都市で誕生した海上保険が、15世紀中頃に発明された活版印刷技術により、大きく発展した経緯について述べています。本書巻頭で当時の海上保険証券の画像を掲示しましたので、併せてご覧下さい。
 井上氏の「戦前の「鮮満一如」構想による多獅(たし)島(とう)港開発」では、戦前期に、朝鮮総督府と満鉄による共同プロジェクトの一環として進められた一大港湾開発について明らかにしています。
 平田氏の「フィジカルインターネットにおけるブロックチェーン技術の応用性に関する研究」では、物流効率化や温室効果ガス削減への対策としてのフィジカルインターネット(PI)とブロックチェーン技術の最新状況について解説しています。
 吉川氏の「バルクキャリア海上輸送量推移と市況変動要因分析 ―回帰分析による市況変動予測―」では、バルクキャリアの市況動向に焦点を当て、主要貨物の海上輸送量推移と市況変動との連動性及び因果関係を明らかにすべく、データを用いて回帰分析を行っています。
 長谷氏の「国内旅客船の振興とMaaSの活用に向けた事例研究」では、公共交通の利便性向上のためのシステムであるMaaSを国内旅客船に利用した場合の事例研究を行っています。
 高木氏の「タイ王国の河川交通にかかる電動船の可能性についての一考察 ―推進力の変更とタイ小型造船業、変化の兆し―」では、在タイ21年目になる筆者が、タイの小型造船業界の動きを紹介する中で、河川交通などでの電動船の可能性を探っています。

 来年の号でも、今号と同様、自由なテーマで論文等を募集いたしますので、巻末の募集要領をご覧のうえ、ご応募下さるようお願いします。
 最後に、今回もこうして『海事交通研究』をお届け出来ることに感謝しつつ、皆様のご健康とご発展とをお祈り申し上げます。

2021年12月
                           一般財団法人 山縣記念財団
                            理事長    郷古 達也

 

 
 
≪目次≫
序文 郷古 達也
≪研究論文(査読付き)≫
     北極海域における船舶による重質燃料油(HFO)の使用・
     運搬規制
     -海運の国際的規律と北極域の国際秩序との交錯-
西本 健太郎
     無害通航を妨害してはならない義務の射程に関する一考察
     -国連海洋法条約24条1項の起草過程-
坂巻 静佳
     船員史における家父長制システムの系譜 石田 依子
     活版印刷の発明が及ぼした「海上保険証券」への影響
     -中世ヨーロッパの海上保険証券における雛型の変化-
若土 正史
     戦前の「鮮満一如」構想による多獅島(たしとう)港開発 井上 敏孝
≪研究ノート≫
     フィジカルインターネットにおけるブロックチェーン技術の
     応用性に関する研究
平田 燕奈
     バルクキャリア海上輸送量推移と市況変動要因分析
     -回帰分析による市況変動予測-
吉川 貢市
     国内旅客船の振興とMaaSの活用に向けた事例研究 長谷 知治
≪現地レポート≫
     タイ王国の河川交通にかかる電動船の可能性についての
     一考察
     -推進力の変更とタイ小型造船業、変化の兆し-
高木 正雄
 

執筆者紹介
山縣記念財団からのお知らせ
   

 

≪執筆者紹介≫
(掲載順)
西本 健太郎(にしもと けんたろう)
 東京大学法学部卒業後、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。東京大学大学院公共政策学連携研究部特任助教、同特任講師、東北大学大学院法学研究科准教授を経て、現在同教授および国立極地研究所北極国際環境研究センター教授。研究分野は、国際法、海洋法。近年の主な著書・論文として、『国家管轄権外区域に関する海洋法の新展開』(有信堂高文社、2021年)(共編著)、“The Rights and Interests of Japan in regard to Arctic Shipping,” Robert C. Beckman et al. (eds.), Governance of Arctic Shipping: Balancing Rights and Interests of Arctic States and User States (Brill, 2017)、「国際海事機関(IMO)を通じた国連海洋法条約体制の発展」『国際問題』No.642(2015年)等。所属学会は、国際法学会、国際法協会日本支部、日本海洋政策学会等。

坂巻 静佳(さかまき しずか)
 東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)(東京大学)。静岡県立大学国際関係学部講師を経て、現在同大准教授。専門は国際法。国際海洋法に関する近著として、“Measures Against Non-Innocent Passage of Warships and Other Government Ships Operated for Non-Commercial Purposes,” Japanese Yearbook of International Law, Vol. 61 (2018)、「BBNJ新協定の地域漁業管理機関に対する影響」坂元茂樹他編『国家管轄権外区域に関する海洋法の新展開』(有信堂高文社、2021年)等。所属学会は、国際法学会、世界法学会、日本海洋政策学会等。

石田 依子(いしだ よりこ)
 奈良女子大学大学院博士後期課程修了。博士(文学)。現在、独立行政法人国立高等専門学校機構 大島商船高等専門学校 商船学科 教授。専門は船員史・船員労働・ジェンダー学・フェミニズム批評理論。主著に、Women at Sea beyond Gender Politics(単著)、 論文では、「女性海賊史序説~18世紀カリブ海の海賊社会におけるジェンダー研究」本誌第58集などがある。2017年には国土交通省海事局船員政策課「女性船員の活躍促進に向けた女性の視点による検討会」委員、現在は「内航船のやさしさ評価制度の確立に関する検討会」委員を務めている。日本航海学会、日本海洋人間学会 会員、及び Women’s International Shipping and Trading Association 理事。2018年4月には国立高等専門学校機構教員顕彰優秀賞、2021年9月には日本海洋人間学会にて優秀論文賞を受賞している。

若土 正史(わかつち まさふみ)
 1973年 関西学院大学商学部卒業後、東京海上火災保険(株)入社、火災新種業務部・営業推進部・代理店部などの本社勤務の他広島・横浜・大阪・長崎などの地方支店にも従事。この間、関西学院大学大学院商学研究科MBA取得。東京海上日動あんしん生命(株)LP営業部長を経て、神戸大学大学院経済学研究科博士課程後期課程修了、「大航海時代におけるポルトガル「インド航路」の海上保険の活用について」で博士号取得(経済学)。同博士論文は2017年山縣勝見賞 論文賞受賞。在学中ポルトガルを中心に海上保険史の調査研究のため1年間ポルトガル・コインブラ大学に客員研究員として留学。現在神戸大学非常勤講師、同大学経済学研究科 研究員。専門は中近世日本経済史。その後も渡航し、ポルトガル及びスペインの古文書館に眠る保険史料を発掘・収集し解読。「保険記録簿から見たポルトガルのインド航路の海上保険について」(本誌第64集、2015年) 「大航海時代におけるポルトガル『インド航路』の海上保険と日本の投銀の接点」(保険学雑誌第642号 2018年)などがある。日本保険学会、日本航海学会に所属。

井上 敏孝(いのうえ としたか)
 奈良大学文学部史学科卒業。兵庫教育大学大学院(修士課程) 修了。兵庫教育大学大学院(博士課程) 博士号(学校教育学)を取得。兵庫教育大学(現在に至る)及び姫路大学等での非常勤講師等を兼ねつつ、大阪の常磐会学園大学専任講師として、保育士・幼稚園・小学校・中学校の教員養成に携わり現在に至る。専門は、日本史・台湾史・アジア史・経済史・教科教育学関連。主な著書は、『日本統治時代台湾の築港・人材育成事業』晃洋書房(単著)・『日本統治時代台湾の経済と社会』晃洋書房 (共著)・『中国の政治・文化・産業の進展と実相』晃洋書房 (共著)・『軍港都市史研究 要港部編』清文堂出版 (共著)が、近年の論文としては、「戦前期における土木会議の設立について-港湾部会での審議事項を中心に-」『土木学会論文集D2(土木史)』Vol.77、1号・「戦前のバンコク港を巡る国際コンペへの参加と設計案について」『タイ国情報』第55巻第5号等がある。

平田 燕奈(ひらた えんな)
 中国東北財経大学卒業。神戸大学経営学研究科博士後期課程修了。神戸大学数理・データサイエンスセンター特命准教授。経営学博士。1998年、A.P.Moller‐Maersk Group入社。カスタマーサービス、営業、航路管理、マーケティング、Eコマース部門において管理職を歴任。2018年5月より、Maersk社とIBM社の協業ユニットであるTradeLensにおいて、ブロックチェーン物流プラットホームの開発推進に従事。2019年神戸大学数理・データサイエンスセンター入職。データサイエンス人材の育成に従事しながら、海運物流分野での経済・経営理論とデータサイエンス手法を融合した研究を行っている。著書としては、『e‐Shipping―外航海運業務の電子化』、『データサイエンス基礎』(共著)、近年の論文としては、「サプライチェーンマネジメントにおけるブロックチェーン技術の応用:機械学習アルゴリズムを用いる解析」、「自然言語処理手法によるCOVID-19が海運・物流に与える影響の考察」などがある。2016年10月日本海運経済学会国際交流賞受賞。

吉川 貢市(よしかわ こういち)
 早稲田大学社会科学部卒業後、シンガポール国立南洋理工大学土木環境学部修士課程修了。現在、早稲田大学社会科学研究科後期博士課程「国際経営論長谷川ゼミ」にて就学中。主な発表論文に、「バルクキャリア船舶投資に於ける最適化モデルの考察 ―分散型投資に於ける収益性向上とリスク軽減のコントロール―」(日本海運経済学会『海運経済研究』2020 年第 54 号、2021年第21回日本海運経済学会国際交流賞受賞)、「大型バルクキャリアの海上輸送数量と海運市況との連動性」(日本物流学会『日本物流学会誌』2021 年第 29 号)がある。所属学会は、日本海運経済学会、日本交通学会、日本物流学会、国際ビジネス研究学会。

長谷 知治(はせ ともはる)
 1994年東京大学法学部卒業後、運輸省(現国土交通省)入省。運輸省運輸政策局貨物流通企画課、近畿運輸局運航部輸送課長、国土交通省海事局総務課専門官、同油濁保障対策官(外航課課長補佐併任)、人事院在外派遣研究員(英国運輸省海事局)、総合政策局地球環境政策室長、東京大学公共政策大学院特任教授等を経て、2021年より同大学院客員研究員・非常勤講師、自動車局保障制度参事官。船舶職員法、油濁損害賠償保障法の改正や、油濁損害に係る追加基金議定書の策定等に従事。本誌第59集(2010年)掲載論文「環境に優しい交通の担い手としての内航海運・フェリーに係る規制の在り方について~カボタージュ規制と環境対策を中心に~」は、2011年山縣勝見賞論文賞を受賞。他に「日本の海運に係る環境政策の策定過程とその対応」本誌第67集(2018年)など。所属学会は日本公共政策学会、日本海洋政策学会

高木 正雄(たかぎ まさお)
 桃山学院大学卒(経済学士、体育会ヨット部所属)。1974ー2003年まで大阪商工会議所(大商)在籍。1990-1992年アジア太平洋トレードセンター(ATC)に出向。大阪南港にあるATCで毎日、海を見ながら勤務。大商復帰後に1級小型船舶操縦士の資格取得。2000年4月-2004年4月大商からバンコク日本人商工会議所(JCC)事務局長として出向。任期満了と共に、大商も早期退職、バンコクで市場調査の会社を設立、現在に至る。ASEAN各国の自動車、エネルギー関連の市場を調査する。2009-2019年一般財団法人海外職業訓練協会(OVTA)のアドバイザー。OVTAのウエブサイトでは毎月「タイの労働事情」を執筆した。2014年から日本海事新聞に毎月「タイの便り」を連載中。2021年タイの船舶EV化特集など東南アジアレポーターとして運輸と物流面を取材。
                                                   (敬称略)