『海事交通研究』(年報)第72集を発行しました。

  12月13日発行後、海事関連の研究者の皆様や企業、団体並びに公立や大学の図書館に配本しました。配本先図書館等はこちらからご覧下さい。
  お手許にお取り寄せご希望の方は、下記の「お問い合わせフォーム」から、またはお電話にてお申込み下さい。
  また、本誌をお読みになってのご感想・ご意見なども是非お寄せ下さい。       
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    TEL(03)3552-6310


≪序文≫

 本年も、『海事交通研究』第72集をここにお届けいたします。
 執筆ならびに査読をいただいた先生方にお礼を申し上げます。
 本年も、全編「自由テーマ」で研究論文(査読付き)およびそれ以外の作品(査読対象外)を募集しましたが、ご覧の通り、非常に多岐に亘る作品が寄せられました。
 各作品の詳細については、今回の第72集から、文頭に「アブストラクト(要旨)」と「キー
ワード」が表示され、最大容量が、従来の12ページから14ページに増えましたが、是非
多くのテーマに目を通していただければと思います。
 
 さて、世界は、2020年初頭から蔓延した新型コロナウィルス感染症、2022年2月に開始されたロシアのウクライナ侵攻、さらには、2023年10月に勃発したパレスチナ・イスラエル間の戦争等により、大いに震撼し、人々の生活や仕事、経済全般に大きな影響をもたらしました。
 当然、「海運」をはじめとした「物流」の世界にも少なからず影響がありましたが、「海運」・「物流」の業界は、人々の生活に欠かせない食料・エネルギー・生活物資の流通を「何があっても止めない」と言う使命感の下に、エッセンシャルワーカーとして活動して参りました。

 私は、「海は、世界を隔てるものではなく、世界をつなぐものである」と言う言葉が好きですが、まさにここで、海を介して世界をつないでいるものは「海運」であり、海が平和を保ち、シーレーンが確保されなければ、「海運」による物流は成り立たず、たちまち私どもの生活にも支障をきたしてしまいます。
 しかし、企業間取引(B to B(=Business to Business)取引)の多い「海運」は、他の多くの
企業・消費者間取引(B to C(=Business to Customer)取引)を主とする産業と異なり、一般消費者に馴染みが少なく、「海運」の重要性が、中々認識されにくいのは、大変残念なことと言わざるを得ません。せめて、7月の「海の月間」や「海の日」の前後には、「海」「船」そして「海運」の世界がクローズアップされ、一般消費者の共感をいただけるよう私たちも努めて参りたいと思っております。

 当財団は、今後も、微力ながら、海運を取り巻く事象を、皆様に伝えていくために、以下の三事業を推進して参る所存ですので、何卒よろしくお願いします(詳細は、巻末の募集要領をご覧ください)。
1.
本誌『海事交通研究』を通じて、海事に関する幅広い分野をカバーする査読付き論文やそれ以外の作品を、広く募集します。査読付き論文については、昨今若干応募が減っている傾向がありますが、是非皆様のご研究成果をお寄せいただきたく、よろしくお願いします。
2.
創設者の名前を冠した「山縣勝見賞」は、2008年に「著作賞」「論文賞」「功労賞」の3つでスタートし、2014年からは「特別賞」が追加されましたが、この「特別賞」についてはイメージが沸きにくい面がありましたので、今回募集要領の文章を加筆しました。
是非、皆様の周囲で、本賞に相等しい方がいらっしゃいましたら、ご推薦くださいますようお願いします。
3.
海事交通文化の研究及び普及・発展に貢献する事業への支援・助成についても、引続きよろしくお願いします。

最後になりましたが、皆様のご健康とますますのご発展をお祈りしております。

2023年12月
                           一般財団法人 山縣記念財団
                            理事長    郷古 達也

 

≪目次≫

序文 郷古 達也
≪研究論文(査読付き)≫
自動運航船の避航アルゴリズムと海上衝突予防法
―「第三船」の認定問題を中心に―
藤 原(森田)紗衣子
中立国商船としての日本海運の安全と新規航路の確立への施策の検討 大河内 美 香
戦時に紛争非当事者国の海上交通が直面する脅威の変遷と対応
―戦時に海上交通を確保するための具体策―
浦 口 薫
≪特別寄稿≫
海運における人間主体のクリーンエネルギー移行とは
―国際エネルギー機関からの 12 の提言と海運への期待―
北 田 桃 子
洋上風力プロジェクトの保険
―長期安定的な海上保険カバー提供に向けて―
小 林 宏 章
海難救助における当事者の義務と責任 雨 宮 正 啓
≪活動報告≫
次世代へ海運の重要性を伝える
―海事教育推進の足跡―
友 田 圭 司
海事広報メディエーターとしてのキャラクター
―山縣勝見賞受賞者の活動報告―
谷 川 夏 樹
 

執筆者紹介
山縣記念財団からのお知らせ
   

 

≪執筆者紹介≫

(掲載順)

藤原(森田) 紗衣子(ふじわら(もりた) さえこ)
2000 年神戸商船大学航海科卒業 三級海技士(航海・機関当直)。神戸大学大学院自
然科学研究科博士後期課程修了 博士(海事科学)。研究分野は、海上衝突予防法を中
心とした航法解釈、海難審判及び船舶事故調査報告書における事故事例の検証。本誌で
は、「海上衝突予防法 7 条『衝突のおそれ』認定における法的課題―船舶の技術革新と
『新たな衝突の危険』の法理の関係を中心に―」(第 71 集、2022 年)を執筆している。
所属学会は日本航海学会、日本海運経済学会。連絡先:potosu21@gmail.com

大河内 美香(おおこうち みか)
立教大学法学部国際・比較法学科卒業、同大学大学院博士前期課程民刑事法専攻修了、
東京都立大学大学院博士後期課程退学、パリ第 2 大学大学院高等研究学位取得(DSU)。
2005 年から現在、東京海洋大学 准教授。専門は国際法、海洋法、海事法。近年の論文
に「国家責任法における過失の位置―高度の危険を内包する活動に関する国家の相当の
注意義務の考察をとおして ― 」(単著)、「 Restabilising Afghanistan through a
Comprehensive Logistics Framework for the Access to Ports」(共著)がある。所属学
会は国際法学会、日本航海学会等。

浦口 薫(うらぐち かおる)
防衛大学校国際関係論学科卒業後、海上自衛隊入隊。防大総合安全保障研究科前期課
程修了(山﨑学生奨励賞受賞)、同後期課程満期退学。2020 年に大阪大学より博士号(国
際公共政策)授与。潜水艦部隊、統合幕僚監部等での勤務や中曽根平和研究所主任研究
員等の研究活動を経て、現在、防大国防論教育室准教授(2等海佐)。著書:『封鎖法の
現代的意義』(大阪大学出版会、2023 年)(猪木正道賞奨励賞受賞)。論文:「海戦におけ
る機能的目標選定の確保をめぐる目標識別上の諸問題」防衛法研究会編『防衛法研究』
第 31 号(2007 年)等。学会報告:「第三国によるウクライナへの武器提供及び軍事情報
提供の法的評価」日本防衛学会、2022 年 11 月;「海上封鎖の現代的意義」国際法学会、
2022 年 9 月等。専門:海洋安全保障、国際法(特に海戦法規、海洋法)。所属学会:日
本防衛学会、国際法学会、世界法学会、防衛法学会、国際安全保障学会等。

北田 桃子(きただ ももこ)
神戸大学海事科学部航海学科卒業 三級海技士(航海)。カーディフ大学社会科学院
(英国ウェールズ)卒業 博士(社会科学)。世界海事大学(スウェーデン)教授、海
事教育訓練専門課程ヘッド。研究分野は、ヒューマン・エレメント、ジェンダー平等、
海事教育訓練、脱炭素化、デジタリゼーションなど。参加型ジェンダー監査、及びモニ
タリングと評価の資格を持ち、国際海事機関のジェンダー平等政策に専門家として評価
や監査を実施している。主に英語による 100 本以上の論文や編著があり、「Transport
2040: Impact of Technology on Seafarers, The Future of Work」の研究報告書(共著者:
Olcer 他)の成果に関し、政治家、船主、研究者を対象に講演を行っている。

小林 宏章(こばやし ひろあき)
慶應義塾大学法学部政治学科卒業。早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。現在、
東京海上日動火災保険(株)船舶営業部部長兼海洋開発室長として、海洋石油開発保険・
洋上風力保険を統括する。寄稿として、「米国における海洋油濁に関わる法制度」『石油
開発時報』No 173、「オーストラリアの海洋環境規制 ~海洋油濁事故発生時の費用に対
応する保険~」『石油・ガスレビュー』Vol.49 がある。2013 年、Association Internationale
de Droit des Assurances (AIDA)・海上保険ワーキングにて「Offshore Energy
Insurance – Risks in Australia」を発表。2019-20 年、 AUV(自律型無人潜水機)の安
全運用ガイドライン策定検討会委員。2020-21 年、洋上風力官民協議会作業部会・サプ
ライチェーン分科会/規制制度分科会/浮体式分科会委員。

雨宮 正啓(あめみや まさひろ)
早稲田大学法学部卒業後、早稲田大学大学院法学研究科民事法学専攻(修士課程)修
了(法学修士)。(株)日通総合研究所、小川総合法律事務所を経て、2018 年 1 月雨宮総
合法律事務所設立。弁護士、法務省法制審議会臨時委員(商法(船荷証券等関係)部会)、
早稲田大学大学院非常勤講師(担当科目:傭船契約法研究I及びII)、大連海事大学客
座教授、(公財)日本海法会評議員、(一社)日本海運集会所海事仲裁委員会仲裁人。早
稲田大学客員教授、法務省法制審議会幹事(商法(運送・海商関係)部会)、国土交通
省「標準運送約款及び内航標準約款のあり方に関する検討会」座長など歴任。主な著作
は「船舶衝突法」2012 年(成文堂)、「船舶衝突法 2 版」2023 年(成文堂)(共著)や “Collision
at Sea” 2011 年・Asian Business Lawyer Fall 2011(高麗大学)、「荷送人の義務の実務
的検討」2018 年・法律時報 1122 号(日本評論社)。

友田 圭司(ともだ けいじ)
信州大学経済学部卒業後、川崎汽船(株)入社。ロンドン、ハノイ、シンガポールで
の海外在勤 10 年。コンテナ船・自動車船・港湾開発事業および経営企画に従事し、理
事(海事産業政策担当)を歴任。並行して長年(15 年来)海事産業政策全般にわたって
海運業界活動に携わる。(一社)日本船主協会 常勤副会長、(一財)日本船員厚生協会
会長を歴任。現在は(公社)日本港湾協会理事。(一社)日本船主協会による環境適合
型船舶解撤の国際条約(2009 年の船舶の安全かつ環境上適正な再生利用のための香港国
際条約(通称シップリサイクル条約)」の発効環境整備活動を主導。同活動は 2020 年、
日本船舶海洋工学会 社会貢献賞を受賞。次世代海事人材育成・確保活動にも注力し国
内外の教育機関での講話、関連業界団体や教育関係者との連携による海事教育推進に注
力している。所属学会は日本海運経済学会。

谷川 夏樹(たにがわ なつき)
関西学院大学卒業。2000 年から屋号「EARTH CONTAINER」を掲げ、コンテナを
テーマにした作家活動を展開。油彩やアクリルによる平面絵画、実物のコンテナを用い
たフィールドワークをてがける。著書に絵本『コンテナくん』(福音館書店)、月刊かが
くのとも『かもつせんのいちにち』『うみのみちしるべ』(福音館書店)。神戸市副教材
絵本『神戸みなと物語』(青山大介・谷川夏樹共著)、『コンテナくんハワイの旅』(新風
舎)などがある。内航船を応援するため 7 月 15 日「内航船の日」(2015 年日本記念日協
会から登録認定)を提唱。2018 年山縣勝見賞特別賞受賞。

                                                   (敬称略)