「海事交通研究」(年報)第59集を発行しました!

≪序文から≫
≪目次≫
≪執筆者紹介≫

 


≪序文から≫

 お陰さまにて当財団は今年で創立70周年を迎えました。昭和15年(1940年)に神戸の地
において「財団法人辰馬海事記念財団」として誕生、日本海運とともに戦中、戦後の厳し
い時代をくぐりぬけてはや70年が経った訳です。初代理事長故山縣勝見は財団設立にあた
り、その趣旨として「海事研究年報」の第1号で、こう述べています。「一般国民の海事
に関する関心いまだ必ずしも深からず、その国家的重要使命に対する認識また徹せざるも
のあるは、遺憾に堪えざるところなり。すべからく権威ある海事調査研究機関を設立して、
これを活用し、もって国民海事思想の普及徹底に努むるとともに、海運諸現象の理解に必
要なる理論的研究の振興促進を図るべきにして、辰馬海事記念財団の庶幾するところ、ま
たこの二事に尽く」と。

 ここに私共の年報である「海事交通研究」第59集をお届けできますのも皆様のお陰と感
謝申し上げます。一昨年から新しい公益法人制度がスタートしており、当財団も公益性の
認定を受けて「公益財団法人」として運営していくためには、我々の活動が「不特定多数
の方々の利益に寄与する」必要があり、この年報の編集も一般公募の方式を採用しました。
そして学会を中心に数多くの方々から応募いただき、今年も充実した内容に仕上がったと
喜んでいます。

 それぞれの論文の内容では、現在海運界で話題になっているテーマが中心になっていま
す。松尾先生は政府が進めている「国際コンテナ戦略港湾」について簡潔に纏められまた
問題提起もされています。さらにこのスーパー中枢港湾問題と関連して議論がなされだし
た「カボタージュ規制」については長谷先生が詳しく分析、合わせて海運界にとって避け
て通れない環境対策についての理論をモーダルシフトの推進とも合わせて展開されていま
す。環境問題では鈴木先生は各輸送機関によるエネルギーの効率化という直接費用に加え
て大気汚染などの各種外部費用の比較計算という新しい切り口で議論を展開しておられま
す。北川先生はこの夏に一部関係国が実施し話題になった北極海の船舶運航に関連して北
極海について詳細に論じ、この実用化は簡単ではないと述べ、さらにここでも環境保全、
自然保護の問題を提起されています。姜先生は多くの資料から現在の中国の港湾事情につ
いて述べ、それらの再編成と問題点について展開しており、関係者にとって興味のある内
容でありましょう。

 逸見先生は現場での経験の中から海技の実践・活用の手法を提示され、この内容はいま
日本人船員(海技者)に必要とされる行動や思考についての貴重な指摘であり方向性であ
ると考えます。また杉崎先生の論ぜられた船員が本来持っているべきシーマンシップにつ
いての展開は、ISMコードだけではカバーしきれない部分への対応に重要な意味を持って
いるものです。今回のチリーでの落盤事故での奇跡的な生還もここで展開されている行動
規範による危機対応機能、未体験対応機能の発揮によるところが大きく、これらにも通ず
る今回の考察であると考えます。この両先生の論文では現場からみた船員にたいする温か
い視点での問題提起、指摘を感ずるものです。
 このように貴重な内容の論文を今年も数多く掲載出来ましたこと、この場を借りて皆様
に心から感謝申し上げるものです。

2010年12月
                            財団法人 山縣記念財団
                              理事長 田村  茂

12月中旬発行後、海運関係の学者・研究者の皆様や国立大学法人、公立および私立の大学図書館・研究所・資料館・一部の企業に配本しました。関心をお持ちの方、購読をご希望の方は、下記までe-mail又はお電話にてお問合せ下さい。
又、本誌をお読みになってのご感想・ご意見なども是非お寄せ下さい。       

財団法人 山縣記念財団

お問い合わせフォーム
TEL(03)3552-6310

 

≪目次≫
序文 田村 茂
(山縣記念財団理事長)
北極海における船舶の運航と環境保全 北川 弘光
(海洋政策研究財団特別研究員)
新シーマンシップ考 杉崎 昭生
(社団法人海洋会会長、東京商船大学名誉教授、東京海洋大学名誉教授)
海技の実践における法的思考の活用~暗黙知的海技の克服のための一手法~ 逸見 真
(独立行政法人海技教育機構海技大学校准教授)
環境に優しい交通の担い手としての内航海運・フェリーに係る規制の在り方について~カボタージュ規制と環境対策を中心に~ 長谷 知治
(東京大学公共政策大学院特任准教授)
国内貨物輸送の外部費用の推定~普通貨物自動車とRORO船・コンテナ船の外部費用の比較~ 鈴木 裕介
(神戸大学経営学研究科学術研究員)
日本の港湾政策に関する一考察 松尾 俊彦
(東海大学海洋学部教授)
現代中国港湾の再編成とその問題点 姜 天勇
(大阪市立大学大学院経営学研究科後期博士課程)

                             
         
 執筆者紹介

 山縣記念財団よりのお知らせ 
 

 


≪執筆者紹介≫
(掲載順) 

北川 弘光(きたがわ ひろみつ)
 1959年横浜国立大学造船工学科卒業後、運輸省船舶技術研究所(現海上技術安全研究所)入所。工学博士(東京大学)。同所推進性能部長、所長を経て、(財)日本造船技術センター理事長、北海道大学大学院工学研究科教授などを歴任し、現在、海洋政策研究財団(OPRF)特別研究員。船舶流体力学、氷工学、海事工学、コンクリート工学などの研究論文130編以上。その他グラスゴー大学、カナダ海洋工学研究所の客員研究員や日本造船学会試験水槽委員会委員長、国際試験水槽会議理事、国際極地工学会議(POAC)会長, 文部科学省南極輸送問題調査会議座長、国際北極海航路研究調査事業(INSROP)日本側コーディネータ、寒冷海域資源輸送問題研究事業(OPRF)委員長、『北極海航路』(OPRF)の編集主査、『New Era in Far East Russia & Asia』(OPRF)編集主幹などを務めた。所属学会は日本船舶海洋工学会(終身会員)等多数。

杉崎 昭生(すぎさき あきお)
 東京商船大学学長を経て、現在東京商船大学及び東京海洋大学名誉教授、(社)海洋会会長。日本航海学会会長等を歴任し、船舶運航の自動化・知能化、海上交通流シミュレータ、船舶運航・物流エキスパートシステムの開発、レーダ偽像予測研究、衝突・乗揚防止システム、操船シミュレータ、レーダシミュレータ、安全問題等について研究。主要著書に、『電子計算機と船舶の自動化』、『船舶システム設計』、『Prologを学ぶ』等、主要論文に『海事交通研究』第55集所収の「海事社会の基盤整備~主として海技技術者に関する人材基盤~」の他、上記分野に関する80編以上の論文があり、日本航海学会の論文賞を4回受賞。又、情報化推進貢献により運輸大臣表彰、工業標準化貢献により通商産業大臣表彰を夫々受賞している。他に、日本船舶海洋工学会、電子情報通信学会、情報処理学会、人工知能学会に所属。

逸見 真(へんみ しん)
 1985年東京商船大学商船学部航海学科卒業後、筑波大学大学院において、経営政策科学研究科企業法学専攻課程、ビジネス科学研究科企業科学専攻課程(企業法コース)を修了。博士(法学)。一級海技士(航海)。新和海運(株)船長を経て現在、(独)海技教育機構海技大学校に勤務、航海科教室准教授。研究分野は海運・海洋に関する国際法、海事法。博士論文『便宜置籍船論』(信山社発行)は2009年山縣勝見賞(論文賞)を受賞。その他、論文、「PSCの法的根拠とその課題」、「ISMコードの利用による船員処罰の回避」、「国際法における海賊行為の定義」などがある。国際法学会、日本海法学会、日本航海学会、日本コンラッド協会所属。

長谷 知治(はせ ともはる)
1994年東京大学法学部卒業後、運輸省(現国土交通省)入省。運輸省運輸政策局貨物流通企画課、大蔵省国際金融局(現財務省国際局)、近畿運輸局運航部輸送課長、国土交通省海事局総務課専門官、同油濁保障対策官(外航課課長補佐併任)、人事院在外派遣研究員(英国運輸省海事局)、国土交通省自動車交通局技術安全部環境課課長補佐、環境省水・大気環境局自動車環境対策課総括課長補佐等を経て、2008年より東京大学公共政策大学院特任准教授、東京大学海洋アライアンス推進委員。船舶職員法、油濁損害賠償保障法の改正や、2003年油濁損害に係る追加基金議定書の策定等に従事。所属学会は日本公共政策学会、日本海洋政策研究会。

鈴木 裕介(すずき ゆうすけ)
 2009年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。商学博士(神戸大学)。神戸大学大学院在学中の2年間、海洋政策研究財団にて研究員として勤務。現在は神戸大学経営学研究科学術研究員。専門は交通経済学。主に自動車交通や物流の環境問題や外部費用の推定に関する研究を行っている。主要論文としては、”Estimation of Social Cost of Transport”(水谷文俊、酒井裕規と共著)や「地域の自動車利用に対する費用負担に関する分析-燃料税に対する議論を中心に-」などがある。日本交通学会、日本海運経済学会所属。

松尾 俊彦(まつお としひこ)
 1982年東京商船大学大学院修了。博士(工学)。東京商船大学、広島商船高専、富山商船高専を経て、現在、東海大学海洋学部教授。海運へのモーダルシフトの研究を進める中で、港湾のあり方にも関心を持つ。近年の論文としては、「我が国の国際フェリー・RORO船航路の特徴と課題」、「中長距離フェリーの利用モデルと航路に関する研究」、「インターモーダル輸送と港湾整備に関する一考察」などがある他、『国際海上コンテナ輸送概論』、『交通と物流システム』、『経済社会と港湾』などの共著作がある。日本物流学会、日本港湾経済学会、日本航海学会、日本沿岸域学会、日本交通学会などに所属。

姜 天勇(きょう てんゆう)
阪南大学国際コミュニケーション学部国際観光学科卒。大阪市立大学大学院経営学研究科前期博士課程(グローバル・ビジネス専攻)を修了し、現在同後期博士課程3年に在学中。研究分野は港湾政策(特に中国の港湾政策)。研究論文として「中国港湾政策の変遷とその役割についての研究」(日本海運経済学会『海運経済研究』第42号)、「日本企業の中国立地の新展開について–製造企業と物流企業を中心に」(大阪市立大学経営学会『経営研究』55(3・4)(共著))、「日本港湾の復権と港湾組織づくり」(2010年「海の日」の日本海事新聞社・日本海洋政策研究会主催懸賞論文にて優秀賞受賞)があるほか、学会発表として「大連港の「北東アジア国際航運センター」の発展戦略についての一考察」(日本海運経済学会第40回全国大会)がある。日本海運経済学会、日本港湾経済学会所属。

(敬称略)