「海事交通研究」(年報)第58集を発行しました!
昨年の12月1日に公益法人改革3法が施行となり、新しい公益法人制度がスタートした。
新しい制度のもとでは、「一般財団法人」か「公益財団法人」のいずれかを選択しなければならない。
国からの助成を受けず、資産の運用で成り立っている当財団にとっては、配当益に20%課税される「一般財団法人」の選択はなく、公益性の認定を受けて「公益財団法人」となる以外に道はない。
当財団が、公益認定を受けるに当たっては、年報や山縣勝見賞などは評価されるものの、公益認定の重要要件である「不特定かつ多数の者の利益に寄与するもの」という点では、現状のままでは認定は受けられないだろう。
年報や支援事業を公募という形を取れば、この問題はクリアーできるとの指摘もあり、来年からは年報の編集方針を変えざるを得ない。
また、酒井先生の「21世紀の海洋教育とは」も参考にさせていただき、従来の海事研究中心から海洋教育にも軸足を置くことも検討しなければならない。
今年の年報は従来と視点の違う論文も多く、ジェンダーの観点から女海賊を分析された石田先生の「女性海賊史序説」は従来の年報にはないものである。
我々が港と云えば船と考えるところを、港を文化の入口ととらえられた、小林先生の「港都横浜の150周年」は横浜港開港150周年記念論文としては特異である。
海賊に関して取り締まりの法的根拠となる国際法の問題点を指摘された、今年度「山縣勝見賞」を受賞された逸見先生の「国際法における海賊行為の定義」と海外拠点の内部化と委託を比較分析された星野先生の「海運企業のグローバル・オペレーションを支える組織の分析」は我々が見逃しがちなテーマである。
「シッピングエコノミスト」で高く評価された吉田先生とオカン・ドゥル先生の共同研究「統計・ファジー統合型時系列予測と意思決定型予測の比較研究」は今後のマーケット予測の指針となると確信する。
柴田先生の「戦後経済の流れと港湾政策の検討」は今号で完結した。最後に港湾労働・海上コンテナ陸送の安全性の法制化の必要性に触れられたのは港湾の隅々まで見てこられた柴田先生らしいご指摘である。
競争力の高い港湾であるためには費用よりサービスが重要であると説かれた二村先生の「港湾競争力に関する考察」も新しい提言である。
今年も内容の充実した第58集「海事交通研究」を発行できたのも諸先生方のおかげと感謝申し上げるしだいである。
2009年11月
財団法人 山縣記念財団
理事長 宮都 讓
12月下旬発行後、海運関係の学者・研究者の皆様や国立大学法人、公立および私立の大学図書館・研究所・資料館・一部の企業に配本しました。関心をお持ちの方、購読をご希望の方は、下記までe-mail又はお電話にてお問合せ下さい。
又、本誌をお読みになってのご感想・ご意見なども是非お寄せ下さい。
財団法人 山縣記念財団
お問い合わせフォーム
TEL(03)3552-6310
序文 ………………………………………………………………………… 宮 都 讓
(㈶山縣記念財団理事長)
【特 集】
港都横浜の150年
~関東大震災を境に変質した固有の港湾文化~ ………………………… 小 林 照 夫
(関東学院大学文学部教授)
21世紀の海洋教育とは
~海洋基本法制定後の海洋教育に関する提案~ ………………………… 酒 井 英 次
(海洋政策研究財団 海技研究グループ国際チーム長
兼海洋教育プロジェクトリーダー)
Comparative analysis of statistical and fuzzy integrated time series and
judgmental forecasting: an empirical study of forecasting dry bulk shipping index
(日本語訳)統計・ファジー統合型時系列予測と意思決定型予測の比較研究
~ドライバルク運賃指数の予測に関する実証分析~
………………………………………………… オカン・ドゥル
(イスタンブール工科大学・海上輸送・経営工学科・
神戸大学大学院海事科学研究科博士後期課程)
吉 田 茂
(神戸大学大学院海事科学研究科教授)
海運企業のグローバル・オペレーションを支える組織の分析 ………… 星 野 裕 志
(九州大学大学院経済学研究院教授)
港湾競争力に関する考察 ………………………………………………… 二 村 真理子
(東京女子大学現代教養学部国際社会学科准教授)
国際法における海賊行為の定義 ……………………………………… 逸 見 真
(独立行政法人海技大学校助教授)
女性海賊史序説
~18世紀カリブ海の海賊社会におけるジェンダー研究~ ………………… 石 田 依 子
(独立行政法人国立高等専門学校機構
大島商船高等専門学校准教授)
戦後経済の流れと港湾政策の検討(後編・1983年以降)…………………柴 田 悦 子
(大阪市立大学名誉教授)
執筆者紹介
【追 悼】
下條哲司先生を悼む ……………………………………………………… 吉 田 茂
(神戸大学大学院海事科学研究科教授)
山縣勝見賞についてのお知らせ
小林 照夫(こばやし てるお)
1969年関東学院大学大学院経済学研究科修士課程終了。1978/79年英国・エディンバラ大学大学院経済学研究科留学。現在関東学院大学文学部教授、同大学大学院文学研究科指導教授。専攻分野は近代イギリス史、日英比較文化史論、都市形成史、港湾史。日本港湾経済学会会長の他、日本学術会議経済政策研究連絡委員会委員、関東都市学会理事などを歴任し学会でも幅広く活躍している。『スコットランド産業革命の展開―エディンバラ経済圏を中心に』、『巨大都市と漁業集落―横浜のウォーターフロント』(1992年日本港湾経済学会北見賞受賞)、『スコットランド首都圏形成史―都市と交通の文化史論』、『日本の港の歴史―その理念と現実』、『スコットランドの都市―英国にみるもうひとつの都市文化論』(2002年日本都市学会賞(奥井記念賞)受賞)など多数の著書がある。
酒井 英次(さかい えいじ)
1994年日本大学法学部卒業後、海洋政策研究財団に入り、現在海技研究グループ国際チーム長兼海洋教育プロジェクトリーダー。主な研究・活動テーマは海洋教育や沿岸域管理で、『日本の海岸はいま』(日本財団)、『消えた砂浜』(日経BP)、『海のトリビア』(日本教育新聞社)、『BE-PAL海の遊び入門』(小学館)などの執筆プロジェクトに携わる。主要論文として、「総合的な学習の時間への支援~東京都月島第三小学校との事例~」(単著)、「海洋教育の普及に向けた実践的取組から探る教員と外部機関の有機的な連携」、「海洋基本法の成立と海洋教育の今後」、「海洋教育の推進等」、「海洋基本法制定後の学校教育における海洋教育」、「海外の海洋教育の現状と課題」、「海洋教育カリキュラム試案」(以上共著)がある。
Okan DURU(オカン ドゥル)
イスタンブール工科大学・海上輸送・経営工学科においてトルコの輸入石炭輸送の需給分析により修士号を取得。航海士として乗船の後、ドヌヤ経済新聞海洋課勤務を経て、2007年国費留学生として来日。2009年9月、神戸大学大学院海事科学研究科に
おいてドライバルク市場の運賃予測研究によって修士号を取得。現在、神戸大学大学院博士後期課程に在籍し、海運市況・産業動向の意思決定型予測法と統計的予測法及び、海運市場の意思決定支援システムの構築について研究中。主な論文にComposite Forecasting:A new approach for forecasting shipping markets”(IAME ProceedingsApril, 2008), ”Market sychology:A sentimental approach to forecasting”(Lloyd’s Shipping Economist, August, 2008)がある。所属学会は、International Association of Maritime Economists, International Institute of Forecasters 及び日本海運経済学会。
吉田 茂(よしだ しげる)
1973年神戸商船大学(現在の神戸大学海事科学部)商船学部航海学科卒業。同年(財)海事産業研究所に入る。その後神戸商船大学商船学部助教授、教授を経て現在神戸大学大学院海事科学研究科教授。博士(商学)。研究分野は、海運/交通経済・経営学。主な著書として『現代日本海運業研究』(1997年日本海運経済学会賞及び住田海事奨励賞受賞)、『新版国際交通論』(共著)があるほか、「海運企業成長に関する一分析」(第1回(1992年)日本海運経済学会賞受賞)はじめ日本海運業の企業戦略や海運市況などに関する多くの論文がある。所属学会は、日本海運経済学会(副会長、前「海運経済研究」編集委員長)、日本交通学会及び日本港湾経済学会。山縣記念財団元研究員、元評議員。
星野 裕志(ほしの ひろし)
慶應義塾大学法学部政治学科卒業。米国ジョージタウン大学経営大学院修士課程修了(MBA)。日本郵船(株)、神戸大学経営学部・経済経営研究所を経て、現在、九州大学大学院経済学研究院教授、神戸大学海事科学部客員教授として、ビジネススクールを中心に教育・研究活動に携わる。専門分野は国際経営、国際物流。主要論文として「定期船海運業における戦略的提携-船社間の協調と競合-」(1999年日本海運経済学会賞受賞)、「海運企業のグローバル展開とマネジメント」(同学会2004年度ベスト・ペーパー賞受賞)がある。科研プロジェクト「非製造企業のグローバル・オペレーションとマネジメントの適合性」代表、国土交通省・九州経済産業局・兵庫県・福岡県・福岡市などの各種委員会委員、市民活動など幅広い活動に従事する。所属学会は、日本海運経済学会(常任理事)、国際ビジネス研究学会(理事)、組織学会、多国籍企業研究学会(理事)、The International Association of Maritime Economists。
二村 真理子(ふたむら まりこ)
東京女子大学文理学部社会学科卒業。一橋大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得の上退学。愛知大学経営学部講師、助教授、准教授を経て、現在、東京女子大学現代教養学部国際社会学科経済学専攻准教授。博士(商学)。専門分野は環境経済学・物流論。主要論文として「企業における物流改革-サッポロビール株式会社を事例として」、「貨物輸送関連の地球環境政策―モーダルシフト推進の方策―」、「環境制約下の交通政策」、「港湾間競争を念頭においた拠点港湾戦略―港湾需要の決定要因に関する分析―」、「中国物流における国有物流事業者の活動-中国遠洋物流有限公司の3PL事業-」などがある他、農林水産省政策評価会水産庁専門部会委員なども歴任した。所属学会は日本海運経済学会、日本交通学会、日本物流学会、公益事業学会。
逸見 真(へんみ しん)
東京商船大学商船学部航海学科卒業後、筑波大学大学院において、経営政策科学研究科企業法学専攻課程、ビジネス科学研究科企業科学専攻課程(企業法コース)を修了。博士(法学)。一級海技士(航海)。新和海運(株)船長を経て、2009年4月より独立行政法人海技大学校に勤務し現在、助教授。研究分野は海運・海洋に関する国際法、海事法。博士論文『便宜置籍船論』(信山社発行)は、 2009年山縣勝見賞(論文賞)を受賞。その他、論文「科学技術の受容における条約法の機能と限界」、「PSCの法的根拠とその課題」、論説「コンラッドの生きた時代の船と船員」などがある。国際法学会、日本海法学会、日本航海学会、コンラッド研究会所属。
石田 依子(いしだ よりこ)
大阪府立女子大学大学院修士課程及び奈良女子大学大学院博士後期課程修了。博士(文学)。現在、独立行政法人国立高等専門学校機構大島商船高等専門学校准教授。専門分野はジェンダー研究。研究テーマは、船舶・船員関連の人文学的研究で、国内外の海運業界におけるジェンダー形成の研究を通して、女性船員の存在意義や社会的受容を分析している。主著に、‘The Modern and Postmodern Narratives of Race, Gender, and Identity: The Descendants of Thomas Jefferson and Sally Hemings’ (単著)、『カリブの風』、『出会いと文化』(以上共著)、主訳書に『サリー・ヘミングス:禁じられた愛の記憶』、論文では、「海運界の女性船員の存在意義―商船高専における女子学生の育成に向けて」、「17世紀の海賊社会におけるエスニシティー海賊社会におけるリバタリア思想の存在とその影響を中心に」などがある。日本航海学会、日本沿岸域学会、日本海事史学会、海事技術史研究会、女性史総合研究会、地域文化学会、The Society for Nautical Research(英国)、The Nautical Research Guild(米国)会員。
柴田 悦子(しばた えつこ)
大阪市立大学名誉教授。博士(商学)。大阪女子経済専門学校(現大阪経済大学)を経て、1951年大阪商科大学(現大阪市立大学)卒。同年大阪市立大学商学部助手となり、経済政策分野を担当。その後交通論特に海運論や物流経済論を担当するが、港湾の研究にも傾倒した。現場に取材したフィールドワークや、国際物流研究者間の共同研究にも力を入れ、その成果は、『港湾経済』、『現代の港湾』、『国際物流の経済学』、『交通論を学ぶ』、『現代の交通政策を問う』、『物流経済を考える』といった著作となって結実した。大阪市立大学教授定年退官後は下関市立大学、名城大学でも教鞭を取り、2000年退職。現在、日本港湾経済学会顧問、日本海運経済学会名誉会員、日本交通学会会員。
(敬称略)