2016年山縣勝見賞贈呈式開催
当財団が海事交通文化の研究及び普及発展に貢献された方々を顕彰するために、2008年に創設した「山縣勝見賞」は本年第9回目を迎え、7月22日(金)「2016年山縣勝見賞」の贈呈式を、海運クラブにて開催致しました。
「2016年山縣勝見賞」贈呈式における受賞者記念撮影 2016年7月22日 於海運クラブ
左から 森 隆行氏(特別賞)、伊藤玄二郎氏(特別賞)、井上欣三氏(功労賞)、
旭 聡史氏(論文賞)、関根 博氏(著作賞)
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受賞者、受賞者略歴、受賞理由は以下の通りです。
≪著作賞≫
(株)日本海洋科学著、関根 博 監修 『実践航海術』
(成山堂書店 2015年9月刊)
受賞者概要/略歴:
(株)日本海洋科学は、自社開発の操船シミュレータを中心に、船舶の航行安全対策をはじめとする海事コンサルティング、船舶の安全運航に関する検船業務、BTM/BRM訓練や各種操船訓練、ECDIS(電子海図表示装置)訓練などを初めとする海事教育業務など、国内を代表する海や船に関わる海事総合コンサルタントである。2015年創業30周年を迎えたのを機に、現役の船長・航海士を含む社員約40名が分担し、本書を執筆した。
監修者関根博氏は、1976年東京商船大学卒業、日本郵船(株)入社後、航海士、船長、シンガポール法人ジェネラルマネージャー、安全環境グループ長、経営委員、常務経営委員等を経て、現在、日本海洋科学社長、東京海洋大学非常勤講師、神戸大学客員教授等。
受賞理由:
本書は、現在の外航船の現場である船橋において、どのようなシステムおよび基準が存在し、それらが船舶の安全運航の達成に向けてどのように運用されているかを、特に実務面を重視しつつトータルにまとめた日本初のテキストである。航海計画に始まり、ブリッジ・チーム・マネジメント、ECDIS、ウェザールーティングなど、船長、航海士が心得るべきこと、実践すべきことを、「暗黙知」などもふくめてグローバルスタンダードな視点から、理論に偏ることなく実務に即して横断的に整理。まさに現役の外航船船長、航海士のバイブル的著書として高く評価できる。
≪論文賞≫
旭 聡史 著 「海上物品運送人の定額賠償制度に関する研究」
(早稲田大学大学院法学研究科 博士学位論文 2014年7月)
受賞者略歴:
1999年京都大学法学部卒業。電気機器、医薬品事業会社を経て2007年川崎汽船(株)入社。現在企業法務リスク・コンプライアンス統括グループ公正競争推進チーム長。2011年早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了。2014年早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程修了、今回受賞論文により博士(法学)取得。
受賞理由:
本論文では、海上物品運送人の損害賠償責任範囲について、定額賠償の規定と言われる商法580条や国際海上物品運送法12条の2の規定との関係性、或いは商法580条と民法416条の関係性について考察するために、ローマ法のレケプツム責任にまで淵源を辿り、更にイギリス、ドイツなどの諸外国の法やハーグ・ウィスビー・ルールを始めとする国際条約の対応する規定を比較・検討する作業を通じ、従来の学説の不備な点を補足した画期的な論文として高く評価したい。
≪功労賞≫
井上欣三氏
受賞者略歴:
1968年神戸商船大学航海学科卒業、日本郵船(株)入社。神戸商船大学で商船学修士、京都大学で工学博士を取得。神戸商船大学副学長、神戸大学海事科学部学部長等を歴任し、現在、神戸大学名誉教授。
受賞理由:
主に、海上交通工学、港湾計画、操船に関する分野において安全評価、安全管理に関する技術開発を中心に多くの業績を残し、日本航海学会優秀論文賞受賞7編、TransNav2007国際会議においてベストペーパー賞、日本船舶海洋工学会関西支部長賞(2009年)、住田正一海事奨励賞(2011年)を受賞。現在は「災害時医療支援船構想」の実現を日本の医療界(医師会、歯科医師会、薬剤師会、看護協会)、透析医療界と連携して取り組んでいる。
≪特別賞≫
氷川丸ものがたり製作委員会(代表:かまくら春秋社社長 伊藤玄二郎)製作
長編アニメ映画「氷川丸ものがたり」(2015年8月上映)
受賞者概要/略歴:
氷川丸ものがたり製作委員会は、本アニメ映画の製作のために、『氷川丸ものがたり』原作者、伊藤玄二郎氏が中心となって起ち上げた。
代表の伊藤氏は、エッセイスト、編集者。中央大学法学部卒業。1970年(株)かまくら春秋社を設立。ポルトガル国立リスボン工科大学客員教授、早稲田大学客員教授、関東学院大学教授等を経て星槎大学教授。
受賞理由:
日本郵船の氷川丸は、米シアトル航路の大型貨客船として1930年竣工し、太平洋戦争中は病院船、戦後は復員船、引揚げ船として、更には再度貨客船として運航し、1960年引退、以後は横浜港山下公園地先に係留され、昭和の歴史の「語り部」として今なおその姿をとどめ、2016年3月には、国の重要文化財に指定されることになった。
戦後70年、建造後85年に当たる2015年、『氷川丸ものがたり』(伊藤玄二郎著)が発行され、同時に本書をもとに、長編アニメ映画(虫プロダクション制作、監督:大賀俊二)が製作され、全国で公開されたことは、海事振興に大きく寄与し、意義深いものと認められる。
≪特別賞≫
森 隆行 著 『神戸港 昭和の記憶 仕事×ひと×街』
(神戸新聞総合出版センター 2014年11月刊)
受賞者略歴:
1975年大阪市立大学商学部卒業、大阪商船三井船舶(株)入社。大阪支店輸出二課長、広報課長、営業調査室室長代理、AMT freight GmbH(Deutscheland)社長、(株)商船三井営業調査室主任研究員等を歴任、東京海洋大学海洋工学部講師、青山学院大学経済学部講師を兼務の後、2006年流通科学大学商学部教授に就任。神戸大学海事科学研究科客員教授、タイ王国マエファルーン大学特別講師を兼務。
受賞理由:
昭和30~40年代活気で満ちあふれていた神戸港を活写した本書は、岸壁から沖の停泊船まで頻繁に行き交う艀やタグボート、気性は荒くても人情あふれる男たち、そして街を闊歩する外国人船員など、かつての神戸港のにぎわいを演出したさまざまな仕事に従事した人々を探し出して直接取材し、完成させた。神戸を愛する全ての人々に大きな励ましを送っている書といえる。
以上