下條哲司喜寿記念随想集 「海運研究者の流転人生」

海運研究者の流転人生~下條哲司博士喜寿記念随想集~

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本書概要

子供の頃海軍大将になることを夢見て、剣道、水泳でからだを鍛え、バレーボールでは和歌山県代表で国体にも出場した下條少年は15歳で終戦を迎えますが、海への想い絶ち難く、やがて「海軍にシンニュウをつけた」海運の世界に入るべく、京都大学の佐波教授の下で、「海運論」を学びます。

卒業したのは朝鮮戦争の特需がなくなった上、旧制と新制が同時に就職戦線に出て行った昭和28
年ですが、何とか小さな船会社に就職でき、幸運にも入社早々船に乗る機会を得ます。

不幸にもその会社はやがて経営が傾いたので転出を余儀なくされ、海事文化研究所(現在の山縣記念財団)の研究員となります。更にその創設者(初代理事長)であった山縣勝見が日本船主協会の会長に就任した機会にその情報係秘書となって山縣が社長を務める新日本汽船に嘱託として席を与えられ、調査業務や営業実務を経験します。その間に従事した市況レポートの編集や海運業史等の研究はやがて海運市場研究に没頭する契機となり、その成果を雑誌「海運」に投稿し始めたことから彼の研究生活はスタートします。

やがて最初の出版書「海上運賃と海運利益」で本格的な海運論を展開し、海運市場の分析や計量経済分析の研究を進める内にコンピューターに興味を持ち、大学教員として転進して最初に持った講座もコンピューターに関するものでした。

その後晴れて(?)海運論の講座を持った下條博士は、海上運賃論、配船論、産業連関分析などにユニークな研究業績を残すとともに、日本の海運研究および自身の研究の海外への紹介に努めました。

一方、彼のコンピューターに対する興味は依然として留まることを知りませんでした。

勿論コンピューターは彼の海運論の分析にも大きく役立ちました。

彼はコンピューターに遭遇する以前の情報係秘書の時代から、海運経営者のもつ経営手腕が彼らの持つ「勘・度胸・運」によるところが大きいと考え、勘の過程を分解してコンピューター化し、これに「カンピュータ」と命名しました。彼はこれをもとに自分自身の研究を自動化し、計量経済分析システムに色々な機能を盛り込むことに専念しました。

この研究は後に甲南大学で、経営情報システムのシステムエンジニアを養成することを標榜して設けられた講座・「経営意思決定論」を担当することによって結実することになります。

彼は、文系の人々にも気にいられるようなコンピュータの入門書を書いてみようと思い立ち、「社会科学系のためのコンピュータ科学入門」という本も書きました。

このように、下條博士は、実業と研究の世界、海運とコンピューターの世界、又文科系と理科系の世界といった異なった分野をクロスオーバーしながら研鑽と実績を積み、神戸商船大学(現在の神戸大学海事科学部)、神戸大学経済経営研究所、甲南大学理学部経営理学科、大阪産業大学経済学部などでユニークな業績を残して来られました。又、元々「文学少年」というもうひとつの顔もあり、そのみずみずしい感性にあふれた文章は、還暦記念随想集「海運研究者の苦笑」、古希記念随想集「しょっちゅう夢中」に続き、今回の「海運研究者の流転人生」にも横溢しています。 


本書内容

「解説的目次」より

  • Ⅰ 若気の至り
  • 若い頃は何でもかでもが実験である。文学少年を気取って文学のまねごともやってみました。
    そのうちの一つが「文学の実験」です。島崎藤村や佐藤春夫などをまねていくつかの詩も作った他に、夏目漱石の文体をまねて、「狭き門への道草」のような迂回的な雑文も数冊の大学ノートに残っています。そのような習慣は就職後も続き、船員用の社内誌辰友会誌に「みの着る海女」他いくつかの文章を投稿し、またノルウェーへの海外研修では「季語に思う」といった感想も綴っています。

  • Ⅱ 私の履歴書
  • 海軍大将を夢見て勉強して来ましたが、時代はそれを許しませんでした。「海運研究者のデヴィエーション」にはああでもないこうでもないと転職を重ねた末、海運経済研究者となってしまった事情を船長さん向けに書きました。数えてみると「平均5年の流転人生」の中で見続けた夢は、定年後ようやくのことに落ち着く島を見つけたみたいです。「デバッグの哲学」や「親父譲り」もそのあたりの事情を伝えています。

  • Ⅲ 半分まじめ
  • 結局海運市場の分析は一生の仕事としても満足できるものですが、決して金持ちにはなれません。「パソコンマニア」「ハイブリッド思考」「著書を語る」「商売人と学者との間」などにはコンピュータとのつきあいから得られたいろいろな仮説が思い浮かびます。「情報への思い入れ」「コンピュータに集まる虫たち」などはその筋の専門家ではないという気楽さからあれこれと書き殴ったものです。

  • Ⅳ 蘊蓄
  • 理科系の学生相手に文系的教養を語るのは実に楽しい仕事です。「早朝サービス雑談集」、「カタカナから英語へ」、「POSHはエリート集団」、「チャーターベースは和製英語」、「チャーターベースとプログラミング」、「勘の養成を目指して」などの他、「灘と六甲にまつわる仮説たち」、「物流と灘の生一本」など、近所のお年寄り相手の雑談も結構おもしろい経験でした。

  • Ⅴ 余生談義
  • 21世紀と共に私は定年を迎えました。「定年 余生 辞世の句」、「余生をどう生きるか」、「定年そして夢の追求」、「無聊ストレス」などは定年を迎えて思うことを綴りました。でも定年はタダわびしいだけではない。定年後の気楽さは「巨大豪華船での世界一周」のような思い切った試みにご覧になれると思います。


下條哲司博士のプロフィール

京都大学で佐波宣平教授のゼミナールに参加。その後(財)海事文化研究所(現在の山縣記念財団)、新日本汽船で調査業務・営業経験等を経て大学教員に転進。神戸商船大学(現在の神戸大学海事科学部)助教授、神戸大学経済経営研究所教授、甲南大学理学部経営理学科教授、大阪産業大学経済学部教授等を歴任。

「海運経済論」、「海運経営論」、「配船論」など海運関連の他、コンピュータへの造詣も深く、「情報科学」などの講座を担当した。

主著として、「海上運賃と海運利益」、「海上運賃の経済分析」、「配船の経営科学」、「社会科学系のためのコンピュータ科学入門」等。

元山縣記念財団研究員、監事。現在、(有)トランプデータサービス社学術顧問。

ホームページURL: http://www.eonet.ne.jp/~shimojo/index.htm

以上