山縣記念財団ライブラリー第2弾 木原知己著『躍動する海-さまざまに織りなす「海」の物語-』発行

 

 この度、先の山縣記念財団80周年記念出版『日本の海のレジェンドたち』に続く当財団ライブラリーの第2弾として、船舶金融論や海事文化論でご活躍の木原知己氏による著作『躍動する海-さまざまに織りなす「海」の物語』が刊行となりました。
 本書は、「海」を歴史的・文化論的に様々な観点から捉えた読み応えのある一冊となっています。
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海文堂出版

(特約書店一覧掲載サイト)

書籍データ
発行年月 2021年5月
判型 A5判
ページ数 336ページ
定価 2,860円(税込)
ISBNコード 978-4-303-63443-8

 

≪「はじめに」から抜粋≫
 ふとしたことから「海」について体系的にまとめてみようと思い付き、『躍動する海―さまざまに織りなす「海」の物語』というタイトルでその構想はまとまりました。
 海はスケールが大きく、ミステリアスにしてフレンドリーです。わたしたちはそうした「海」なる風土性が反映される時間の流れのなかで息づいており、それは、わたしたちが「海」によって織りなされる“文化”とともにあるということです。
 公益財団法人日本海事センターによる「海に関する国民の意識調査」(2014年)によれば、「海が好き」と回答した人は69.9パーセント(前年の調査結果では69.3パーセント)、「海が嫌い」と回答した人は3.3パーセント(同2.7パーセント)、「どちらとも言えない」が26.8パーセント(同28.0パーセント)となっています。男女別でみると女性よりも男性の方が海に対する好感度は高く(男性75.7パーセント、女性64.7パーセント)、「海が好き」と回答した10代の若い層が前年比12.3パーセント増の69.2パーセントと調査開始以来最高を記録したようです。
 海が好きな理由は「落ち着く・癒される・安らぐ・心が和む・リラックスできる・安心感がある」がもっとも多く、「泳げるから・遊べるから」と続きます。逆に海が嫌いな理由は、「汚い・汚れる・臭いが嫌・ベタベタする」がもっとも多く、「見るのは好きだが泳ぎたくない・入りたくない」と並んでいます。好きでも嫌いでもどちらでもないのは、「行く機会がない・遠い」からのようです。海から連想することの1位はレジャーで53.9パーセント(前年は54.3パーセント)、観光14.7パーセント、船9.8パーセント、環境問題4.1パーセント、海洋資源3.5パーセント、海に係わる仕事1.6パーセントと続いています。レジャーと回答した人を年代別でみると、60代は3割台ながら20代から40代は6割を超えています。高年齢層は海に「静」、若い層は「動」の要素を求めているのでしょうか。
 以上の調査結果から見えてくるのは、少なからぬ日本人が「海」に対して関心を示しており、「海」が多くの日本人の心の原風景として息づいているということです。海洋国であれば当然かもしれませんが、なんだかホッとします。敢えて言うまでもなく、島国であるわが国において海は身近な存在であり、遠洋にまで出かけていく漁船団、貿易立国を支える海事産業―わが国貿易量の99.6パーセント(重量ベース)を担っている(『SHIPPING NOW 2020–2021』)―の恩恵を受けてわたしたちは日々の生活を送っています。海はわたしたちの暮らしそのものと言っても良く、海について改めて考えることでわたしたちの生活はより実りあるものになるにちがいありません。
 本書では「海」が主役であり、海についての大まかな整理、わたしたちの祖先と海の出会い、わたしたちの日々の生活と海の関わり、わたしたちが海に対して抱く心の問題、海と文化、すなわち海と科学(サイエンス)や技術・創造性(アート)との関係性、「海洋国」のあるべき姿をメインストリームとしています。海を扱うとなれば、海洋学など自然科学の分野とされがちです。しかし、これからの海洋について語るとき、自然科学に裏付けられた社会科学や人文科学の知見に基づく分析と総合が重要になる、と、わたしは確信しています。本書はそうした考えに基づいています。

 

≪目次≫
第1章 「海」の諸相
 1. 「海」の雑学
 2. 七つの「大洋」
 3. 大洋の「付属海」
 4. 運河
 5. 母にして女性なる「海」
 6. スケールの大きい「海」
 7. ミステリアスな「海」
 8. フレンドリーな「海」
第2章 ホモ・サピエンスと「海」
 1. 「海」の誕生
 2. ホモ・サピエンスの誕生と「海」
 3. ホモ・サピエンスの移動と「海」
 4. ホモ・サピエンスの“日常”と「海」
第3章 わたしたちの“心”を織りなす「海」
 1. 正(プラス)の心を織りなす「海」
 2. 負(マイナス)の心を織りなす「海」
 3. 冒険・探検を織りなす「海」
第4章 交易・文化を織りなす「海」
 1. 交易を織りなす「海」
 2. 文化を織りなす「海」
第5章 わが国の交易・文化を織りなす「海」
 1. 稲作文化、金属文化の伝来
 2. 儒教、仏教の伝来
 3. 遣隋使の派遣
 4. 遣唐使の派遣
 5. 日宋貿易
 6. 武士の勃興と「海」
 7. 日明貿易
 8. 倭寇
 9. 南蛮貿易と文化の伝来
 10. 朱印船貿易
 11. 家康の交易振興
 12. 家光の鎖国政策と内航網の確立
 13. 朝鮮通信使
 14. 江戸期いろいろ
 15. 「文明開化」への助走
 16. 明治期における文化の伝来
 17. 浸潤する西洋文化
 18. 「教えを乞う」ということ
 19. 産業の興隆
 20. 海外においてわが国の文化を織りなす「海」
最終章 わたしたちの“明日”を織りなす「海」
 1. 海村を織りなす「海」
 2. 「海」の未来と社会
 3. 真の「海洋国」をめざして

 

≪プロフィール≫
木原知己(きはら ともみ)
1984年4月に九州大学法学部卒業後、日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。資本市場業務のほか、主として大手海運会社向け船舶融資業務を担当し、営業第八部長(海運・鉄道担当)を経て、高松支店長を最後に同行退職。その後、都内金融機関を経て2011年に青山綜合会計事務所顧問に就任。パートナーを経て退職。現在、センチパートナーズ(株)代表取締役、早稲田大学大学院法学研究科非常勤講師(「船舶金融法研究講座」)、海事振興連盟3号会員、海洋立国懇話会理事運営委員などを務める。専門は船舶金融論・海洋文化論。著書に『シップファイナンス―船舶金融概説(増補改訂版)』海事プレス社(2010年):住田海事奨励賞受賞、『船主経営の視座―税務・為替の手引』海事プレス社(2011年)、『波濤列伝―幕末・明治期の“夢”への航跡』海文堂出版(2013年)、『船舶金融論―船舶に関する金融・経営・法の体系』海文堂出版(2016年、2訂版(2019年)):山縣勝見賞著作賞受賞、『号丸譚―心震わす船のものがたり』海文堂出版(2018年)、編著(編集者代表)に『船舶金融法の諸相―堀龍兒先生古稀祝賀論文集』成文堂(2014年)、『日本の海のレジェンドたち―山縣記念財団80周年記念出版』海文堂出版(2021年)がある。