2020年山縣勝見賞受賞者決定

 当財団は、2008年に設立者の名前を冠した「山縣勝見賞」を創設し、海運を中心とする海事交通文化の研究及び普及発展に貢献された方々を顕彰し、その研究成果(著作・論文)や業績を対象として表彰する制度を発足しましたが、このほど「2020年山縣勝見賞」の受賞者が下記の通り決定しましたので、お知らせ致します(敬称略)。
 なお、新型コロナウイルス感染予防の観点から、受賞者への贈呈式の開催については未定です。
     

     

≪著作賞≫

小林 登(こばやし のぼる)著『定期傭船契約論』
(信山社出版、2019年7月刊行)

受賞者略歴
 1947年生まれ。1972年東京大学法学部卒業、1987年上智大学法学部助教授、1992年同教授、同年K・ルーヴァン大学客員教授(1992年12月まで)、同年パリ第二大学客員研究員(1994年9月まで)、1996年東北大学法学部教授、1999年成蹊大学法学部教授、2004年パリ第一大学客員研究員(2006年9月まで)、2016年成蹊大学名誉教授。主要著書は、『現代商法入門』(有斐閣、2014年)、『保険法コンメンタール(損害保険・傷害疾病保険) 』(同、2014年)。

受賞理由
 我が国の海商法において、長年極めて重要であり、解決が難しい問題の一つとされてきた定期傭船契約に関し、2018年に運送法、海商法に関する規定が大幅に見直され、新たに商法に定期傭船契約に関する規定が置かれることになった。そこで、そのような改正がなされた背景や議論の状況はどのようなものであったのかを、英米法とドイツ法を中心に、フランス法も含んで幅広く比較法的考察により解明した本書は、著者の長年の研究の集大成であると同時に、時宜を得た著作と評価する。
     

≪著作賞≫

水本 邦彦(みずもと くにひこ)著『海辺を行き交うお触れ書き-浦触の語る徳川情報網-』
(吉川弘文館、2019年8月刊行)

受賞者略歴
 1946年生まれ。1975年京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学、現在京都府立大学・長浜バイオ大学名誉教授、文学博士。主要著書は、『近世の村社会と国家』(東京大学出版会、1987年)、『草山の語る近世』(山川出版社、2003年)、『徳川の国家デザイン』(小学館、2008年)、『村―百姓たちの近世―』(岩波書店、2015年)。

受賞理由
 江戸時代に全国の海辺の町や村に行き交っていた海運・海難に関するお触れ書き「浦触(うらぶれ)」を、40年以上にわたり、北は青森から南は四国・九州まで踏破、全国各地に残された古文書を調査することで、その当時の通信手段や伝達された内容を調査し、徳川幕府体制の情報ネットワークの実態解明に迫った。これは、わが国の海事交通文化の研究・普及発展に貢献する研究成果と言える。
     

≪論文賞≫

 該当者なし
     

≪功労賞≫

池田 宗雄(いけだ むねお)(元東海大学海洋学部教授)

受賞者略歴
 1938年生まれ。1961年東京商船大学航海科卒業・三井船舶入社、1968年甲種船長、1969年東京商船大学専攻科修了、1981年大阪商船三井船舶(株)船長、1988年(財)日本気象協会航路気象部部長代理、1992年(社)日本海難防止協会海上交通研究部部長、1996年東海大学海洋学部教授、2002年工学博士、2013年海事技術史研究会会長、現在同会顧問。主要著書は、『船舶運航のABC』(成山堂書店、1983年)、『船舶知識のABC』(同、1983年)、『港湾知識のABC』(同、1986年)、『七つの海を行く』(交通研究協会、1993年)。共著に『産業と気象のABC』(成山堂書店、1990年)、『生気象学の事典』(朝倉書店、1992年)がある。

受賞理由
 海事関係の入門書である『船舶知識のABC』『港湾知識のABC』はロングセラーとなっており、海事関係者のみならず、広く一般読者にも受け入れられている。また、海運会社や学界他でも活躍され、広範囲にわたり顕著な足跡を残している。こうした海事産業全般に対する多大なる貢献と功績は功労賞に値する。
     

≪特別賞≫

菊池 金雄(きくち かねお)

受賞者略歴
 1920年生まれ。1939年無線電信講習所(現電気通信大学)修了、1940年大同海運入社、北米・東南アジア航路に乗船。戦時中、陸・海軍徴用船乗組み通信士官として戦火の海を挺身、1951年大同海運退社、海上保安庁入庁、1981年海上保安庁退職、1984年保護司委嘱、2000年退任、2020年6月 満100歳を迎える。

受賞理由
 太平洋戦争を徴用船員として生き抜き、2002年5月体験記を著書『硝煙の海』(武蔵野文学舎)として上梓。同名のホームページも起ち上げ、戦時中の徴用船にまつわる秘話の聞き取り調査も、閲覧者と交流を重ねながら行っている。長年にわたる太平洋戦争時の徴用船の記録/取材活動を通じて、海事交通文化の発展に寄与したことを評価する。

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