山岸寬著『海運70年史』発行

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 7月17日、当財団理事 山岸寬氏(流通経済大学流通情報学部教授、東京海洋大学名誉教授)執筆による『海運70年史』を発行し、海事関係団体・企業・図書館・研究者などに配本しました。関心をお持ちの方、お読みになりたい方は、下記までe-mail又はお電話にてお問合せ下さい。

 一般財団法人 山縣記念財団
 TEL: 03-3552-6310
 E-mail: zaidan@yamagata.email.ne.jp


本書目次

    第1部 世界海運
     第1章 戦後の英国海運 
     第2章 戦後の米国海運 
     第3章 第二次世界大戦終結後の国際海運と便宜置籍船 
     第4章 国際海運における経営システムの変革 
     第5章 国際海運における規制 
     第6章 海運におけるグローバル経営の進展 
     第7章 海運税制と自国海運の競争力の強化
    第2部 日本海運(1)-海運政策-
     第1章 1940 年から1945 年までにおけるわが国海運の管理時代 
     第2章 わが国経済政策の基本理念と海運の発達
     第3章 わが国経済の成長と計画造船制度
     第4章 わが国の再建整備と経営体質の改善
     第5章 為替変動と産業の空洞化
     第6章 トン数標準税制の創設
     第7章 わが国海運の強化と国際船舶制度
     第8章 わが国海運とマンニング・コスト問題
    第3部 日本海運(2)-海運活動-
     第1章 わが国海運を取り巻く構造変化
     第2章 わが国における為替変動と海運会社の経済的影響
     第3章 わが国における新たなマンニング・システム
     第4章 規制緩和後のわが国外航海運会社の環境と輸送活動
     第5章 定期船会社の合理的経営とグローバル・アライアンス
     第6章 先進国における海運政策の基調とその特徴
     第7章 2000 年以降におけるわが国海運を取り巻く環境変化(1)
     第8章 2000 年以降におけるわが国海運を取り巻く環境変化(2)
     第9章 2000 年以降におけるわが国海運を取り巻く環境変化(3)


「本書の発行にあたって」より

  本書は山縣記念財団創設70周年を記念して発行するものである。当財団はわが国をはじめ諸外国の海運・港湾・物流などの実態を調査・研究し、その成果を外部に公表することを主たる目的としてきたが、近年では、大学や財団など各種教育研究機関と連携して、海運や港湾をはじめロジスティクスなど幅広い研究分野において、一段と積極的な研究活動を行っている。
 ところで、本書の研究範囲は主に戦後70年間におけるわが国と世界の海運の動静を分析するものである。わが国海運は第二次世界大戦によって壊滅状態に瀕したが、戦後は経済の成長に伴い順調に回復してきた。特にわが国では1970年代以降国際海運活動において中心的な役割を担うほど急速な発展を遂げてきた。本論では、第二次世界大戦終結後におけるわが国海運を取り巻く環境変化について克明に分析するとともに、経営的側面からみたわが国海運会社の特徴についても詳細に考察する。
 わが国の海運業は、1964年における海運集約体制の確立以来、ほぼ20年間にわたって政府による手厚い助成を受けてきた。その意味で、わが国海運業は被補助産業としての性格が強く表れていた。その後、1980年代後半に規制緩和策が採られて以来、企業に対する自己責任重視の中で、海運各社は独自の経営方針を決定してきた。その結果、わが国の外航海運業の国際競争力が低下するとともに、海運業の産業上の地位も相対的に下降した。
 このようなわが国外航海運業の相対的地位の後退は海運を取り巻く環境の激変による。その最大の原因が円高の進行である。円高の結果、わが国海運会社の集荷力が著しく低下し、企業の採算は急速に悪化した。
 円高の結果、わが国では経営規模の減量と合理化の促進という二つの問題を早期に解決することが必要となった。具体的には、適正な経営規模と効率的な事業運営という二つの政策目標が課題となった。それは、わが国経済における大量生産の時代が終焉したことを意味するとともに、外航海運業における縮小経営とリストラ(事業の再構築)の問題が急浮上したことを意味する。
 これら二つの難問を早期に解決するための具体策として海運会社の経営規模や保有船舶の質的改善が緊急の課題となった。この場合、船隊や要員を削減し、企業規模の縮小を目指すことと、コスト高となった不経済船を処分し、効率的な輸送方法を確保することという二つの方法である。もちろん、このリストラ対策は余剰人員の雇用対策や陸上従業員の削減の問題と密接に関係したため、わが国海運業は過去において経験したことがないような複雑な経営問題を抱えることとなった。
 具体的には、個別企業の立場からみると、かつての規模の大型化を目指す経営戦略から一転して規模の縮小を目指す経営戦略への転換を意味し、過去の経営戦略とは全く異質の戦略を駆使して輸送活動の効率化を目指すことを意味する。その場合、経営戦略の選択に際しては過去に経験したことがないような斬新な戦略を駆使することが要求されるようになったのである。
 わが国外航海運業のリストラについては、数ある戦略の中で一部の大手企業が、資本の面や輸送活動の面においても、際立った貢献度を発揮してきた。集約期においては、中核6社を柱とする一部の海運会社がわが国海運の指導的な役割を担ってきた。そして、規制緩和後においては、しばらくの間、大手5社を中心としてリストラを図ってきたが、その後海運環境は激変し、1999年以来大手3社がわが国海運の中核を担うようになった。
 この場合、リストラの具体的方向としては事業の新規開拓による企業業績の改善と経営基盤の強化が挙げられる。そして、その目的達成手段として経営の多角化や総合物流事業への転身が重視されるようになった。
 定期船活動に関連する分野においては、米国内のダブルスタック・トレインによる複合輸送の充実や国内各地おける物流センターの整備をはじめ、関連企業の買収や代理店組織の自営化など巨額の費用を投じて大胆な経営戦略に着手するとともに、旅客輸送事業や不動産事業など海上部門や陸上部門の新規事業を開拓し、海運活動部門の補完的役割を担う部門として重視されるようになった。
 そのほかに、経費の節約手段として、海運会社の機能分化が強まったことも極めて大きな進歩であった。具体的には、企業組織から船舶管理部門を分離し、より効率的な経営を目指す戦略が重要となったのである。
 リストラの結果、わが国の外航海運会社全体の営業収入は1980年代以来長期間ほぼ横ばいの状態で推移してきた。経済規模が拡大する中で、わが国の外航海運会社の国際競争力の強化はほとんど不可能な事態に陥っていたため、わが国の海運環境は時の経過とともに悪化の一途をたどってきた。
 その結果、わが国の海運構造は1980年代から1990年代にかけて激変している。それは1970年代から1980年代における英国海運の衰退ぶりを想起させるかのような深刻な事態に陥っている。
 わが国海運の構造変化を象徴するものは、日本籍船の相対的シェアが低下し、外国用船の相対的シェアが急増したこと、そして日本籍船の積取比率が激減したことである。このように、わが国海運が自国籍船志向型から外国用船志向型に移行したということは、産業の空洞化現象が将来強まることを示唆していた。産業の空洞化現象があらゆる分野で強まる中で、海運業の空洞化率が際立って高い水準に達した。これは既存の海運経営からいち早く脱皮し、斬新な海運経営を構築することが必須の条件となったことを意味する。
 1990年代におけるわが国海運の空洞化現象は、1)わが国における産業の空洞化の進展により海外進出、海外拠点、海外生産という三つの経営戦略が定着化したため、わが国の貿易構造が激変し、日本籍船による輸送活動が相対的に減少せざるをえない状況に陥った。
2)わが国を除く他のアジア諸国の経済が成長し、アジア地域に関係する製品や原材料物資が数量的に増加した。その結果、アジアにおけるわが国の相対的地位が低下したため、日本籍船による輸送量の伸びを期待することが困難な事態に陥っている。
 本書では、前述のようなわが国海運の実態を踏まえて、第二次世界大戦終結後におけるわが国海運を取り巻く環境変化を時系列的に分析するとともに、わが国海運会社が採ってきた経営行動について考察する。
 なお、本書は山縣記念財団の助成・支援を受けて発行することを付記しておく。
                   


著者 山岸寬氏の略歴

1971年 早稲田大学大学院商学研究科博士課程後期課程単位取得満期退学

1971年 財団法人山縣記念財団専任研究員

1972年 東京商船大学商船学部専任講師

1985年 英国ウェールズ大学海運学部客員研究員、米国カリフォルニア大学
     バークレー校交通工学研究所客員研究員

1987年 東京商船大学商船学部教授
1995-1996年 中国大連海事大学客員教授
1996年 財団法人運輸経済研究機構運輸政策研究所客員研究員
2001年 日本交通学会評議員
2003年 東京海洋大学海洋工学部教授

2003年 日本海運経済学会副会長
2005年 流通経済大学流通情報学部教授
2005年 東京海洋大学名誉教授
2007年 財団法人山縣記念財団理事(2012年一般財団法人となる。)
2013年 山縣記念財団より「山縣勝見賞」(功労賞)受賞
2013年 日本海運経済学会名誉会員

主な著書
『交通論』(共著)法学書院、2000年
『海上コンテナ物流論』成山堂書店、2004年
『現代交通観光辞典』(共著)創成社、2004年
『国際海運と国際物流の新地平~山岸寬教授退任記念論文集~』(共著)
山縣記念財団、2005年

以上