『海事交通研究』(年報)第63集を発行しました。

≪序文から≫
≪目次≫
≪執筆者紹介≫

 

≪序文から≫

 世界を震撼させたエボラ出血熱感染の脅威・地球規模の自然災害・毎日のように発生するテロの報道・・・そんな気が滅入るような暗い話が多い中で、先日青色発光ダイオードで日本人3人がノーベル物理学賞を受賞し久しぶりに明るい話題で日本列島が沸いた。特に赤崎勇教授の「これまで私を支えてくれた会社や大学など皆さんのサポートのおかげです。1人の力ではない。この場を借りて感謝申し上げます。」と謙虚なコメントを聞いて何かほっとしたものを感じた。
 冒頭の数々の不安や不幸な出来事も人類の英知をもって一日でも早く克服することを心より祈りたい。

 さて、本年も多くの論文を応募いただき『海事交通研究』第63集を皆様にお届け出来ることを嬉しく思っております。
 まず、当財団からの指定テーマに応募いただいた合田浩之氏の北極海航路におけるハブポートの考察は欧州側の現状を解説するとともに、日本における今後のゲートウェー・ポートの論議に示唆を与える論文であります。 
 斎藤吉則氏は東日本大震災で甚大な被害を受けた実体験から得た教訓をもとに、今後の大震災対応に向けて企業戦略としてのBCPのあるべき姿を具体的に提案しています。 
 松尾俊彦先生・永岩健一郎先生は内航フィーダー輸送を拡大するには内航フィーダー船の大型化と外貿コンテナに加え内貨コンテナとの混載も必要となることを見越し、内航フィーダーと内貨コンテナ輸送の両方を研究対象とし考察を試みています。 
 南健悟先生は船舶の港湾施設との衝突に関し港湾法上の原因者負担制度の要件等についての考えを展開しています。 
 松本宏之先生は日本の港湾に関するセキュリティ対策について港湾管理者はセキュリティに関する明確な理論的根拠を有すること、制限区域での航行環境の整備等が重要と指摘しています。 
 長谷知治先生は戦争や海賊の有事リスクに対し海上保険では補填されないところを明らかにしたうえで、それらの備えとして具体案を明示しています。 
 藤本昌志先生は我が国沿岸、特に船舶交通が輻輳する海域における小型船舶と大型船舶の海難事故を減少させるための方策として小型船舶に対する特別規定の創設、施行について提言をされています。 
 福山秀夫氏は中国政府の3つの政策(「海鉄連運」・「ユーラシア・ランドブリッジ」・「18か所コンテナセンター整備計画」)の新展開について、現地取材を通し論じています。 
 寒河江芳美氏は世界最大の船員供給国であるフィリピンの船員問題を海事関連の経験者・実務者から多数ヒアリングした結果を基に、高級士官を育成するにはOJTの充実と船員派遣業者との連携の重要性を説いており、この研究報告は今後の高級士官育成の検討材料に資すると考えます。

 この様に貴重な内容の論文を多数掲載できましたこと、厚く御礼を申し上げるとともに、来年度も沢山の応募を頂きますよう重ねてお願い申し上げます。

2014年11月
                          一般財団法人 山縣記念財団
                           理事長    小林 一夫

 

 11月25日発行後、海事関連の研究者の皆様や企業、団体並びに公立や大学の図書館に配本しました。関心をお持ちの方は、下記の「お問い合わせフォーム」から、又はお電話にてお申込み下さい。
 又、本誌をお読みになってのご感想・ご意見なども是非お寄せ下さい。       

一般財団法人 山縣記念財団

お問い合わせフォーム
TEL(03)3552-6310

 
≪目次≫
序文 小林 一夫
(山縣記念財団理事長)
【指定テーマ】
北極海航路におけるハブポートの考察
─ノルウェー・ロシアの事例から─ 
合田 浩之
(日本郵船㈱ 調査グループ総合調査チーム)
【特別寄稿】
東日本大震災から「南海トラフ巨大地震」への備えとBCPを考える
斎藤 吉則
(㈱協伸商会顧問・元JA全農東日本地区部長)
内航コンテナ輸送の拡大に関する一考察 
─西日本における内航フィーダー輸送を中心として─
松尾 俊彦
(大阪商業大学総合経営学部教授)
永岩 健一郎
(広島商船高等専門学校教授)
港湾施設の損傷と港湾利用者の法的責任に関する一試論 南 健悟
(小樽商科大学商学部准教授)
日本の港湾に関するセキュリティ対策 
─制限区域(水域)の現状と問題点─
松本 宏之
(海上保安大学校教授)
海運・海洋に関するリスク管理 
─有事に係る保険を事例に─
長谷 知治
(東京大学公共政策大学院 客員研究員)
【提言】
小型船舶の衝突海難防止のための特別規定に関する提言
藤本 昌志
(神戸大学大学院海事科学研究科准教授)
【研究報告】
中国鉄道コンテナ輸送の発展とユーラシア・ランドブリッジの新展開
福山 秀夫
(㈱ジェネック経営企画グループ長)
【研究報告】
日本の海運業における外国人船員の採用システム
─日本企業とフィリピン人船員の新卒労働市場─ 
寒河江 芳美
(㈱MOLマリン 海技人材事業部 海務監督・船長)

                              
         
 執筆者紹介

 山縣記念財団よりのお知らせ 
 

 

                             
 
≪執筆者紹介≫
(掲載順) 

合田 浩之(ごうだ ひろゆき)
 1991年東京大学経済学部経済学科卒業後、日本郵船(株)入社。現在調査グループ総合調査チーム長。博士(法学、筑波大学)、博士(経済学、埼玉大学)。現在日本工業大学大学院技術経営研究科客員教授。2010年『コンテナ物流の理論と実際』(石原伸志氏との共著)で住田正一海事奨励賞、日本物流学会賞並びに日本港湾経済学会北見俊郎賞を受賞。研究テーマは、国際商取引、港湾経済、海運経済、北極海航路、便宜置籍船、海運史等。当年報にも「便宜置籍船–その法的・経済的意義の再検討–」(第54集、2005年)、「船舶解撤業と環境–印度の試み–」(第57集、2008年)、「仕組船の概念の歴史的変遷」(第60集、2011年)と3度の寄稿がある。日本海運経済学会、日本港湾経済学会、日本貿易学会、国際商取引学会等に所属。

斎藤 吉則(さいとう よしのり)
 1974年立命館大学経済学部卒業。同年全国農業協同組合連合会(JA全農)に入会。1984年~1988年全農が米国における穀物集荷輸出拠点としてニューオリンズに設立した全農グレーン㈱に出向、帰国後飼料部航運課で主にUSガルフ~日本間の穀物船用船を担当。その後、人事部並びに名古屋・本所・大阪・福岡各支所の飼料畜産生産関連部署勤務を経て、2004年支所廃止後の東日本地区部長(北海道・東北・関東の3ブロック)に就任。2006年北日本くみあい飼料㈱代表取締役社長となり、2011年「東日本大震災」に遭遇、2012年退任。2013年から㈱協伸商会顧問。

松尾 俊彦(まつお としひこ)
 2002年東京商船大学大学院商船学研究科博士後期課程修了。広島商船高専助教授、富山商船高専助教授、東海大学海洋学部教授等を経て、現在、大阪商業大学総合経営学部教授。博士(工学)。専門分野は物流論(インターモーダル輸送、物流政策)。海運へのモーダルシフトの研究を進める中で、港湾のあり方にも関心を持つ。近年の論文として、「内航海運における船舶管理の在り方に関する一考察」、「内航海運における船員不足問題の内実と課題」、「内航RORO船・フェリー市場の棲み分けと競争に関する一考察」などがある他、『内航海運』、『交通と物流システム』などの共著作がある。2007年日本物流学会賞受賞。日本物流学会、日本港湾経済学会、日本航海学会、日本沿岸域学会、日本交通学会、日本海運経済学会、IAME、内航海運研究会所属。

永岩 健一郎(ながいわ けんいちろう)
 2003年東京商船大学大学院商船学研究科博士後期課程修了。広島商船高専助教授を経て、現在教授。博士(工学)。専門分野は、船舶海洋工学、社会システム工学。近接離島航路のサービス改善策や環境負荷低減に資するモーダルシフト問題、最近では内航コンテナフィーダー船の利用拡大や離島における買い物弱者対策について関心をもつ。近年の論文としては、「海外トランシップコンテナの国内集荷に関する一考察」、「モーダルシフトによる内航フィーダー輸送量の拡大に関する研究」などがある他、『交通と物流システム』、『内航海運』などの共著作がある。2003年日本航海学会賞、2007年物流学会賞受賞。日本物流学会、日本航海学会、日本沿岸域学会所属。

南  健悟(みなみ けんご)
 静岡大学人文学部法学科卒業後、北海道大学大学院法学研究科法学政治学専攻博士前期課程及び後期課程を修了し、2010年小樽商科大学商学部企業法学科准教授に就任、現在に至る。博士(法学)。又、2012年10月より、北海道地方交通審議会船員部会委員、2014年4月より、早稲田大学海法研究所招聘研究員。専門は、商法及び会社法。主論文に、「企業不祥事と取締役の民事責任(一~五・完)―法令遵守体制構築義務を中心に」、「違法停泊船と航走船との衝突に関する一考察」(当年報第61集、2012年)、「改正船員法の概要と論点―船員概念及び船長に対する労働時間規制の検討を中心に」がある。日本海法学会、日本私法学会、日本航海学会に所属。

松本 宏之(まつもと ひろゆき)
 1979年海上保安大学校卒業後、筑波大学大学院博士課程社会工学研究科を単位取得修了。1988年海上保安大学校交通安全学講座講師、助教授、教授を経て、現在、同大学校海上警察学講座主任教授。博士(経営工学)。専門分野は、海上交通政策と海上交通法。2010年「国際海上衝突予防規則の改正案に関する研究」で、公益社団法人日本航海学会論文賞を受賞。その他、主な書籍として、『海上保安の諸問題』(共著)が、また主な論文として、「海域利用調整に関する一考察」、「海上衝突予防法上の「衝突のおそれ」に関する一考察」、”Towards the Systematization of the Japanese Maritime Traffic Law”などがある。日本航海学会、日本法哲学会、法とコンピュータ学会、中四国法政学会に所属。

長谷 知治(はせ ともはる)
 1994年東京大学法学部卒業後、運輸省(現国土交通省)入省。運輸省運輸政策局貨物流通企画課、大蔵省国際金融局(現財務省国際局)、近畿運輸局運航部輸送課長、国土交通省海事局総務課専門官、同油濁保障対策官(外航課課長補佐併任)、人事院在外派遣研究員(英国運輸省海事局)、東京大学公共政策大学院特任准教授等を経て、2011年より同大学院客員研究員。また2014年より国土交通省総合政策局環境政策課地球環境政策室長。船舶職員法、油濁損害賠償保障法の改正や、油濁損害に係る追加基金議定書の策定等に従事。当年報第59集(2010年)掲載論文「環境に優しい交通の担い手としての内航海運・フェリーに係る規制の在り方について~カボタージュ規制と環境対策を中心に~」は、2011年山縣勝見賞論文賞を受賞。所属学会は日本公共政策学会、日本海洋政策研究会。

藤本 昌志(ふじもと しょうじ)
 神戸商船大学卒業後、2005年大阪大学大学院法学研究科博士後期課程修了。神戸大学海事科学部助手、助教授を経て、現在、同大学大学院海事科学研究科准教授。博士(法学)。専門分野は海上交通法、安全管理、海事行政。近年の論文として、「護衛艦「あたご」漁船「清徳丸」衝突事件における海難審判と刑事裁判の相違」、「海上交通行政における規制緩和に関する問題–「貨物船R号 貨物船S号衝突事件」を基に–」、「親水水路におけるプレジャーボート航行に関する条例による規制 –芦屋市の事例について–」、著書として『概説 海事法規』(共著)、『海技士1N・2N口述対策問題集』などがある。2012年BEST PAPER AWARD受賞(Asia Navigation Conference 2012)。日本航海学会、日本海洋政策学会、日本海洋人間学会、瀬戸内海研究会議、公法学会、The Nautical Institute、Royal Institute of Navigation所属。

福山 秀夫(ふくやま ひでお)
 1980年九州大学法学部卒業後、山下新日本汽船(株)入社。1991年日本郵船(株)に移籍し、北京事務所駐在員などとして勤務の後、(公財)日本海事センター海事図書館長を経て、2014年から (株)ジェネック経営企画グループ長。その間、2005年より中国物流研究会という任意の研究団体で中国鉄道コンテナに関する研究活動を開始。2013年2月と9月に訪中、調査した成果を、日中経協ジャーナル、日本海事新聞、ERINA REPORT、KAIUN、LOGI-BIZで発表した。他に著書として、『ミャンマー海事調査報告書』、『ベトナム海事調査報告書』がある。日本海運経済学会、日本物流学会所属。

寒河江 芳美(さがえ よしみ)
 1974年富山商船高等専門学校航海科卒業。同年山下新日本汽船㈱入社。2004年合併後の㈱商船三井の船長職を退任、同年㈱エム・オー・エル・マリンコンサルティング 海技人材事業部(現在の㈱MOLマリン)に移籍し、海務監督・船長に就任。現在派遣先の極東石油工業合同会社において、バース管理業務に携わる。現職の傍ら、2010年慶應義塾大学経済学部卒業(卒論:「海運業界における船員雇用についての一考察–船員労働市場の内部化と人的資源管理–」)、2013年法政大学経営学研究科経営学専攻修士課程人材・組織マネジメントコース修了MBA取得(MBA論文:「日本の海運業における外国人船員の学校教育及び企業の採用・昇進構造 –フィリピン現地労働市場における高級士官育成システムの構築をめざして–」)。

(敬称略)