『海事交通研究』(年報)第60集を発行しました。

≪序文から≫
≪目次≫
≪執筆者紹介≫

 


≪序文から≫

今年は本当に荒れた年であった。2月のニュージーランドでの地震、続いて3月11日の東日
本大震災とそれによる原発事故、そして10月にはタイでの大洪水と大きな天災が続いた。
特に後の2件はサプライ・チェーンのマヒを引き起こし世界中の生産活動に多大の影響を与え
た。世界経済も米国の景気回復の遅れ、ヨーロッパの財政危機による先行き不安にこの天災
の影響が加わり海上荷動き量は大きく伸びなやんだ。わが国の海運企業はこの景気低迷に
よる海運市況安、原油高による燃料費高騰、さらに大幅な円高により定期船、不定期船(含
む自動車専用船)、タンカーと三部門同時不況の様相を呈し、各社業績は大幅な下方修正を
余儀なくされている。
このような厳しい年ではあったが、東日本大震災を契機に、人々が「絆」についてより深く考
えまたそれを求め、そして日常生活の「当たり前」を見つめなおす動きがあちこちで出てきた。
海事分野でも、津波被害などの防災面の学習も含めて、海への理解と関心を高める「海洋教
育」の重要性が見直されてきている。そして、関係団体、各大学、関連産業界などが経済活
動、資源確保さらに環境問題と海の活用の重要性を小中高での学校教育で広げていこうとい
う動きとなって来ている。当財団もこれらの動きに微力ではあるが引き続き貢献する所存であ
る。
さて、本年も多くの論文を応募頂きこのような形で発行できた。東日本大震災での内航海
運の活躍を藤井氏にまとめて頂いた、また震災発生直後にロンドンのホワード弁護士から今
回起こりそうな海事問題への法的アドバイスが寄稿あり、その内容を紹介した、これは坂本
氏のチャーター・ベースの活用論文とともに、今回から実務面での論文掲載により海運実務
者にもこの「年報」が活用され、読者を広げることを期待してのものである。新井氏の論文は
2010年の「山縣勝見賞」の受賞論文の続編といえるものである。合田氏の内容はこのよう
なわが国海運歴史の流れをきっちりと残して置く貴重な論文であり、清水氏、古井氏、高嶋
氏、李氏の論文はそれぞれ時宜にかなった内容で、環境、リサイクル、省エネ、カボタージュ
など広い範囲にわたって書いていただいた。さらに、今年からは「海上保険」の分野もこの年
報で新たに取上げるテーマとして加えており小路丸氏の論文を掲載している。
このように今年も充実した内容で「海事交通研究」第60集を出すことが出来たことは諸先生
のご協力の賜物と深く感謝申し上げる次第である。

2011年12月
                             財団法人 山縣記念財団
                              理事長 田村  茂

 

12月中旬発行後、海運関係の学者・研究者の皆様や国立大学法人、公立および私立の
大学図書館・研究所・資料館・一部の企業に配本しました。関心をお持ちの方、購読をご希
望の方は、下記の「お問い合わせフォーム」から、又はお電話にてお問合せ下さい。
又、本誌をお読みになってのご感想・ご意見なども是非お寄せ下さい。       

財団法人 山縣記念財団

お問い合わせフォーム
TEL(03)3552-6310

≪目次≫
序文 田村 茂
(山縣記念財団理事長)
【特集】東日本大震災と内航海運 藤井 英男
(日本内航海運組合総連合会 調査企画部長)
【特別寄稿】東日本大震災による海事諸事情の法的解釈 William A. Howard
(Reed Smith 法律事務所 Partner)
(翻訳:田中庸介,手塚祥平,平良夏紀)
米国における油濁による損害賠償・損害評価の動向~エクソン・ヴァルディーズ号事件連邦最高裁判所判決の射程~ 新 井 真
(川崎汽船株式会社 IR・広報グループ長)
仕組船の概念の歴史的変遷 合田 浩之
(日本郵船株式会社 調査グループ総合調査チーム)
先進国型シップリサイクル(室蘭プロジェクト)の構築にむけて 清水 一道
(室蘭工業大学 教授、室蘭シップリサイクル研究会 座長)
北九州市の静脈産業 古井 恒
(流通経済大学流通情報学部教授)
内航商船に対するウェザー・ルーティングについて 髙嶋 恭子
(東海大学海洋学部講師)
韓国内航海運におけるカボタージュ規制の動向 李 志明
(流通科学大学商学部講師)
英法における被保険危険による損害の研究 小路丸 正夫
(元(株)損害保険ジャパン)
Charter Baseの変化とその活用について 坂本 久
(山縣記念財団 理事)

                             
         
 執筆者紹介

 山縣記念財団よりのお知らせ 
 

 


≪執筆者紹介≫
(掲載順) 

藤井 英男(ふじい ひでお)
 1979年東京大学経済学部経営学科卒業後、日本郵船(株)入社。不定期船及び定期船
の配船・営業、本社経理・関連事業を主に担当。海外現地法人(英国、韓国)及び国内子会
社の管理部門なども幅広く担当。2010年9月より日本内航海運組合総連合会 調査企画
部長。

William A. Howard
英国の弁護士。Londonにある法律事務所Reed SmithのPartnerでThe Supreme Court
of England and WalesのSolicitor。海事関係ではCharter Party, B/L や造船契約
などの分野で活躍。2011年11月にはReed Smithの他のPartnerと来日、日本海運集会
所で海賊問題やRotterdam Rulesについて講演、日本でも多くの関係者がいる。連絡先、
William Howard Partner, Shipping Group of Reed Smith +44(0)20 3116 2991
(direct) +44(0)777 167 7678 (mobile) E-Mail whoward@reedsmith.com
翻訳者 東町法律事務所 田中庸介、手塚祥平、平良夏紀 各弁護士
同法律事務所は神戸が本部ながら東京、今治にも進出、海事関係にも力を入れている。
今回の日本海運集会所のReed SmithのSeminarでも田中庸介弁護士が日本語解説を
行った。このReportの全内容は東町法律事務所のH/P(http://www.higashimachi.jp/)
コラム欄で閲覧できる。 info@higashimachi.jp

新井 真(あらい まこと)
 1983年上智大学法学部卒業後、川崎汽船(株)入社。人事課長、不定期船グループ、経営
企画グループ等にて勤務の傍ら、日本船主協会会長秘書、政策幹事長、解撤幹事長、環境
幹事長を歴任し、現在、川崎汽船(株)IR・広報グループ長。2009年早稲田大学にて博士号
(法学)取得。博士論文「自然資源損害賠償と懲罰的損害賠償の接点~エクソン・ヴァルディ
ーズ号事件を契機とした米国の動向とわが国における射程~」は2010年山縣勝見賞(論文
賞)を受賞。研究分野は民法、環境法、法社会学等。他に主要論文として、「自然資源損害
評価の諸相~環境に値段をつけることの是非~」、「自然資源損害賠償と人身損害賠償の
接点」、「シップリサイクルにおける『ゆりかごから墓場まで』」がある。日本私法学会、日米法
学会所属。

合田 浩之(ごうだ ひろゆき)
1991年東京大学経済学部経済学科卒業後、日本郵船(株)入社。現在調査グループ総合
調査チーム所属。博士(法学、筑波大学)。東海大学海洋学部や一橋大学商学部の講師を
歴任し、現在日本工業大学大学院技術経営研究科客員教授。2010年『コンテナ物流の理
論と実際』(石原伸志氏との共著)で住田正一海事奨励賞、日本物流学会賞並びに日本港
湾経済学会北見俊郎賞を受賞。研究テーマは、国際商取引、港湾経済、海運経済、北極海
航路、便宜置籍船、海運史、等。山縣記念財団にも「便宜置籍船~その法的・経済的意義
の再検討~」(2005年)、「船舶解撤業と環境~印度の試み~」(2008年)と2度の寄稿が
ある。日本海運経済学会、日本港湾経済学会、日本貿易学会、国際商取引学会等に所属。

清水 一道(しみず かずみち)
 1986年北海道大学工学部機械工学科卒業後、新日本製鐵(株)機械プラント事業部入社。
その後、大分高専制御情報工学科及び機械工学科助教授等を歴任の間、北海道大学にて
博士号(工学)を取得。更に室蘭工業大学材料物性工学科助教授、ものづくり基盤センター
・材料物性工学科准教授、もの創造系領域材料工学ユニット・ものづくり基盤センター兼務
准教授を経て、2011 年、もの創造系領域材料工学ユニット教授、ものづくり基盤センター
センター長に就任。専門は、機械材料学、トライボロジー、設計工学、材料力学。ものづくり
コラボーレーション特別奨励賞(2011年)をはじめ、ものづくりに関する十指に余る受賞に加
え、国土交通省平成23 年「海の日」海事関係功労者大臣表彰も受賞。多くの著書、論文の
執筆活動に加え、室蘭シップリサイクル研究会座長等、政府・団体の委員なども歴任。日本
機械学会、日本トライボロジー学会等に所属。

古井 恒(ふるい ひさし)
 1980年㈱日通総合研究所入社。国や地方自治体からの委託テーマに関わることが多く、
主に港湾物流の調査・研究に従事。在職中の1994年、流通経済大学大学院経済学研究科
博士課程単位取得満期退学。その後流通経済大学に転出し、専任講師を経て、2008年流
通情報学部教授となり現在に至る。専門分野は、港湾経済論、流通論、環境経済論、リサイ
クル物流。主要論文として「リサイクル物流と港湾」等。日本港湾経済学会、日本物流学会
所属。

髙嶋 恭子(たかしま きょうこ)
 東海大学海洋学部航海工学科を経て、2009年東京海洋大学大学院博士後期課程を修了
し、工学博士となる。この間約2年間、内航商船に3等航海士として乗船。2010年より、東海
大学海洋学部において講師となり、主に、ウェザー・ルーティングを利用した船舶の省エネル
ギー運航についての研究、内航船向け最適航海計画支援システム“ECoRO”の研究・開発
に携わる他、最近では、船員教育についても研究している。主要論文に、「ウェザー・ルーテ
ィングによる燃料節約~コンテナ船の航海データを用いたシミュレーション~」、「到着遅延リ
スクを考慮した内航船の省エネルギー運行について」等がある。日本航海学会所属。NPO
法人マリン・テクノロジストの研究ボランティア会員。

李 志明(い じみょん)
 2008年東京海洋大学博士後期課程修了。博士(工学)。(財)日本海事センター(現公益
財団法人)を経て、現在、流通科学大学商学部講師。専門はグローバルロジスティクス。
主に、企業拠点の国際間移動に関する研究を行ってきたが、近年は物流政策や海運政策も
研究している。主要論文には、「企業拠点の国際間移動の実態とカタストロフィー理論を用い
たモデル化に関する研究」、「国際海運におけるCO2排出規制の動向とEU規制による船社
の負担額の分析」などがある。日本物流学会、日本海運経済学会所属。

小路丸 正夫(こうじまる まさお)
 1967年長崎大学経済学部経済学科卒業後、安田火災海上保険(株)(現在の(株)損害
保険ジャパン)入社、海損部貨物第二課長、安田マリンサービス(株)損害調査部長などを経
て、日本船主責任相互保険組合損害調査部へ転籍し、2009年退職。この間、海上保険クレ
ーム、火災新種保険クレーム、貨物賠償クレーム等を担当。著書に『貨物海上保険・貨物賠
償クレームのQ&A』、最近の論文に、「保険における因果関係理論についての考察」、「損害
保険における保険事故の研究」、「因果関係の研究」、「保険法の理論的考察」がある他、
「万凜遊」のペンネームで著書『行動するあなたへ』や海上保険に関する多くの論文と海事
法に関する幾つかの論文がある。

坂本 久(さかもと ひさし)
  (財)山縣記念財団理事。1971年 山下新日本汽船(株)入社、経理部、遠洋部、ロンドン
駐在、鉄鋼原料グループリーダーを経て1993年に退職。1993年~1999年安田火災海上
保険(株)、1999年~2010年(株)センチュリーチャータリング(同期間中は日本郵船(株)
不定期船グループ、NYKグローバルバルク(株)及び日本郵船(株)製鉄原料グループに出
向勤務)。通算で約30年間を不定期船関連の業務に従事。2010年7月から(財)山縣記念
財団の研究員を経て2011年7月理事に就任。

(敬称略)

平成22年度日本海洋少年団「褒状山縣賞」授与式に出席しました。

12月2日、(株)商船三井本社(東京・港区)にて、(社)日本海洋少年団連盟主催の平成22年度「褒状山縣賞」表彰式が開催され、当財団から、田村理事長、郷古常務理事が出席しました。

同賞は、同連盟が、優秀な団員を顕彰し、海運、船舶、海洋環境保全等の知識の更なる向上とモチベーションの昂揚を図り、卒団後も引き続き海洋少年団の指導育成に当たる人材を確保するために、同連盟の第3代会長を務めた山縣勝見(当財団創設者、初代理事長)の名を冠し、平成22年度から開設したもので、その第1回(平成22年度)授与式は、当初平成23年3月に予定されていましたが、東日本大震災のために延期されていたものです。

席上、同連盟の鈴木邦雄会長(商船三井相談役)から受賞者に表彰状の授与があり、続いて当財団田村理事長より祝辞の後、受賞者を代表して川内いづみさんから謝辞の答礼がありました。

平成22年度「褒状山縣賞」の受賞者は、以下の皆さんです。

 佐世保海洋少年団 川内いづみさん
 門司海洋少年団   中村貴志さん
 敦賀海洋少年団   草崎美帆さん(授与式には欠席)

平成22年度「褒状山縣賞」の受賞記念撮影 左から、川内いづみさん、中村貴志さん


※写真をクリックすると拡大します。